平和
この島を一言で表すならまさにそれだ。海賊がきても対した騒動にならないのはこの島の住人一人一人がそれなりに強いから、海賊もそれを知っているからだと思う。そんな平和な島でそれはまあのんびり酒場を営んでいるあたしは平凡な幸せ者だと自覚していますはい。
「名前ー!」
「……また来た」
そんな日常に突然入ってきたこいつ、あの白ひげ海賊団の一員だというエースは停泊してから毎日ここへくるようになった。
贔屓にしてくれるのはいいが酔った後のエースは正直面倒くさい。悪いときにはここでいきなり寝たまま起きないからあたしがわざわざあの馬鹿でかい船まで引きずっていかなければならないのだ。
「ここよりいい酒場は他にたくさんあると思うよ」
「いいんだよ俺は名前に会いにきてんだから」
そんな台詞を恥ずかしげもなく言うこいつをある意味尊敬。始めはこんな台詞にも一々顔を赤くしていたあたしだが、こうも毎日言われると真剣みのなさに呆れるだけだ。たぶん天然なんだろうけどこの顔でこんなこと言われたら普通だったら勘違いするからこれ、
「来るなら仲間連れて来てよ。そっちのほうがお金になるし」
「おーそうしたいんだけど出たがらなくてよ。……あ、」
「なに?」
「名前船まで来てくんねぇ? 親父にもここの酒飲ましてやりてーし」
「えーめんどい」
「はい決まりー! ……と、お前ここになんか大事なもん置いてあるか?」
「いや、特にないけど…なんで?」
「なんでもねぇ。じゃ! いくぞー!」
「うわっ」
酒樽とあたしを担いで飛び出すエース。なんだか機嫌がいいみたいだけど担がれたあたしはたまったもんじゃない。
「おろせ馬鹿!」
「聞こえねーな」
通り過ぎる人達が元気でねとかしあわ……とかなんか言ってた気がするけどよくわからない。から気にしない。
「ほれ、到着」
あっという間に船に着き、無理矢理乗せられる。それからはまたあっという間でいつの間にか宴は中盤に差し掛かっていた。
「エース。あたしそろそろ戻んなきゃだから。お金は明日でいいよ」
「は、なに言ってんだお前」
きょとんとするエースにあたしまで目が点だ。あたしなんか変なこと言ったか?
「もう島には戻れねぇよ」
「は?」
「だってよー」
ちらりと外に目を向けるエースに嫌な予感がして甲板に飛び出す。
「……嘘、」
そこにあるはずの島はなく、あるのは延々と続く海だけだった。
「エース! なに、あたしついていけてないんだけど!」
「つまりだなー…お前も今日から海賊ってわけだ」
「ざっけんな馬鹿! 確認もせずに勝手に海賊にすんな! 帰らせてよ」
「もう島から相当遠いからムリだ」
ニッと笑うエースに溜息。考えらんない、エースも、気づかなかったあたしにも。
「なんのためにあたしなんか……」
「好きなんだからしょうがないだろー」
………は
「これでこれからも毎日会えんだろ」
久々に顔が赤くなるのを感じ気づかれないように俯いた。
太陽は笑う
(どうした名前。顔赤いぞ)
(っ、うるさい!)