泣くつもりなんてさらさらなくて、むしろ怒りで煮え繰り返ったこの腹のなかをどう鎮めようかを考えていたところ。最初のころは悲しくて泣いたりもしたけどこう何度も繰り返されてはもう怒りとか虚しさとか、そんなんしか沸き上がらなくなった。泣くのもあほらしいわ、





「てことで殴らせろ」
「怖いわぁ、そない怒らんでよ」
「……」




この馬鹿狐に罪悪感とかそういう意識はないらしく今回も例の如くへらりと笑っている。




「なんで、」
「ん?」




なんで浮気なんかするの、と言いかけた口を閉じる。なんでかなんて答えは随分昔に自分で気付いていたから今更聞くなんて意味もないこと。結論を言えば、あたしはもう疲れました。




「別れよ」
「嫌や」
「別れる」
「別れない」
「……」




なんなんだこいつ、あ、狐か。
……じゃなくて。なんで別れるのが嫌なのかあたしには全く理解できない。なんで浮気なんかするの、の答えはあたしのことが嫌い好きじゃなくなった興味ない、そのあたりだと思ってたから。頭一つ分背の高いギンの顔を見上げるとまたへらりと笑う。




「別れてよ」
「別れんよ」
「なんでよ」
「名前」
「……なに」
「好き」




ぎゅうと痛いほど抱きしめられて、心臓まで痛くなった。なんでそんなこと言うの。好きならなんで浮気なんかするの。なんであたしばっか、こんなにギンのこと好きなの、
たくさんのなんでか頭の中を渦巻いて視界が滲む。殴るつもりだったのに、泣かない、溢れるな、




「名前泣いて」
「、いや」
「ボクが浮気するんなんでか知りたい?」
「っ」




瞼に唇を落とされて、抱きしめる腕に更に力を加えられる。
きしり、軋んだのは骨か心か、



「名前の泣き顔見るため」


泣いて、

ニヤリと笑ったギンに涙が溢れた。





君が泣くから

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