紅花の咲く景色 | ナノ
イメージは錆


生々しいホラーを体験及び逸話の絶えない事で3年レギュラーから怖がられている赤城家。景観は良いのだが、住人に大問題。

「こんばんはー。満居るかー?」

玄関で声を出す赤也に、壮年の女性がやって来て穏やかに笑いかけた。満の母である。

「今晩は赤也君。満なら今ご飯の支度してるから上がって頂戴。荷物が多いけれど手伝いましょうか?」

「あ、平気ッス。お邪魔しまーす。」

にこにこふわふわした雰囲気を纏う満の母だが、凄まじい悪趣味の持ち主。
騙されて当たり前なぐらいギャップがある。

「私はちょっとカルテ整理に病院行くから、2人で先にご飯は食べてね。」

「嘘つけー!昨日3時までやらせといて終わってないなんて言わせないわよお母さん!寝不足の娘こき使わないで!」

台所から迷わず包丁が飛んで来る、とんでもない家だが赤也は慣れた。とっさに身を低くして、安全を確保している。

「まったくもう。可愛い娘と彼氏を応援しようと言う母心が解ってないわね。赤也君、頭上げていいわよ。危ない娘でごめんなさいねぇ。お婆ちゃんにすっかり似ちゃって。」

満の母の指に挟まれた包丁は、満が手入れを怠らないので見事に細い。
そんなもん指で平然と取らないでおばさん、と言っても無駄。赤也は英語とドイツ語の医学書ばかりの、満の父の部屋に荷物を置きに行く。
満は良くも悪くも、母に似ているようで種類が違う。

「赤也ー!晩御飯出来てるから洗濯物出してから来てねー!」

「りょーかい!」

この空気に慣れている時点で、赤也は色々と間違っている。満の母もあっさり包丁を投げるのだ。
嫌でも動体視力が鍛えられる。命懸けに見えるから。人当たりは良いのだが、親子間のコミュニケーションが凄まじい。親子の間に会話は要らない、と言うが赤城親子は手合わせをしながら我が儘や相談をする。
日常茶飯事だから、慣れるのも仕方ないと思ってはいけない。
自力で起きるまで、満は殺気に当てられて刃物で応戦する朝だった。一般家庭とは程遠い。

「満、晩飯何?」

「赤也が来るって聞いてたから、多めに作れる中華だよ。お母さん、マジで病院行っちゃったし。」

「満の母ちゃん毎回怖いからなぁ…。いただきまーす!」

あまりにも、身内とそうでない人の差と力量を明確にしている。あの穏やかそうな満の母が怒り狂う姿は、何があっても回避すべきと赤也が熱弁を奮う所以。
見た事は無いが、満を見ていれば何となく解るのだ。十徳ナイフを入学祝いに贈るのだから。

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