紅花の咲く景色 | ナノ
猫じゃらし
目当ての本をわざわざ都内にまで買いに行く。ついでに新作ケーキと雑貨屋の新商品をチェックする事が、今時の女の子らしい点なのだが。
厄日だった。
「よぉ赤城。久しぶりじゃねぇか。」
「あっくん…確かに久しぶりだけどね?善良な女子中学生に対していきなり殴りかかるなんて、どんな育て方されたの。」
反射的に走り抜け、ナイフでごく浅い傷を付けた満。自称、善良な女子中学生なのである。
「野郎に殴られそうになって一瞬で切る女は善良とは言わねえ。テメェこそどんな育て方されてんだ。」
「ある意味英才教育らしいわ。今日は何?何かした記憶は無いわよ。」
首を傾げながらも、満は片手にナイフを持って気を張っている。油断すれば面倒な事になるからだ。
亜久津とて愚鈍ではない。小さくとも毒蛇は毒蛇、死神のような満なのだ。一瞬が命取りになりかねない。
「ダーツで腕刺しやがっただろうが。他の借りも一緒に倍で返してやる。」
「せっかく気分良くショッピングしてたのに。まぁ、遊べるなら遊んでみなさいよ?」
バッグが落ちた音と共に、満は体を低くして亜久津の周囲を駆けた。目にも留まらぬ早業で、浅い傷が増えていく一方だ。
数分後、満の動きが止まった。息も乱れていない。怪童と呼ばれる亜久津が最も恐れ、忌み嫌う存在。
「あっくん、お客さん。青学の河村さんが見てるよ。どう解釈するかな?」
無邪気に笑う満を、亜久津は思い切り睨んだ。体験してもなお、信じられない動きをやってのける。
「あっくんプライド高そうだからね。口が裂けても年下の女の子にやられた、なんて言えっこない。違うかしら?」
「亜久津…?それに立海の…?」
全く状況が理解出来ない。亜久津が満を睨んでいて、危険な筈なのに満は笑っていて亜久津は傷だらけ。
「河村はすっこんでろ。」
「あらあら、お知り合いだったのね。意外だわ。でも私はギャラリーがいる所で遊ぶつもりはないのよ。一応自重したいから。」
満は亜久津の鳩尾に膝蹴りを入れ、ひらりと跳んだ。亜久津は鳩尾を押さえながら、まだ満を睨む。腕が上がっている。
「赤城…テメェ!」
「やっぱり非力なのかな?あっくんが丈夫すぎるのかな?まだまだ先は長そうだし、またね?会いたくはないけど。」
バッグを拾い上げ、満は見える速さで駆け抜けた。
「待ちやがれ赤城ー!」
「お、落ち着け亜久津。傷が多すぎる。」
「皮一枚しかあのアマ切ってねぇ。」
とりあえず、亜久津にとって満は天敵なのだ。それだけは河村も解った。
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