紅花の咲く景色 | ナノ
不思議を疑う


その後、青学では桃城のTシャツが何故切れたのか?と不可解にしか思えない事で相談していた。
ちなみにゲーセンでの騒ぎは、中学生同士が喧嘩になりかけただけ、となっている。

「赤城だっけ?あいつは手を上げただけだし、おチビは何か見えた?」

「いや、何も。」

実物を見ているが、鋭利な何かを使わなければつけようがない。華奢な缶切りで横に切り、すぐ仕込み直していた。半袖だから、マジックにも見える。

「明らかに切られたのだろうが…人間の爪では無理があるし手を上げただけで横に切れるか?」

神業とも言える、紙一重の切り方。桃城は無傷だったのだから、不思議に思って当たり前だ。

「2人キレて止められなかったら二度とテニス出来ねぇぞって…どういう事ッスかね?」

桃城が呟くが、どういう事もそういう事なのだ。事情を知らなければ解らないだろう。
文字通り、選手生命は断たれる。外科医の娘である満が、叩き込まれた技術の粋を以て。立海のエースである赤也が、圧倒的な怒りを力に変えて叩き潰し、その若さでありながらかつての栄光に変えてしまうのだ。

「地獄の果てに案内とも言ってたね。女の子が?しかも守られてたのに?何か怖い目だったけど。」

「…手塚君、私それ見たかも。」

未だにお姫様である、マネージャーは顔を強ばらせ自分を抱き締めた。当然嘘だが。
果てのない闇を思わせる死神の目は、獲物を狩る時にしか見られない。今回は、ジャッカルの命懸けの行動で、何とか助かったのだ。

「具体的に、どんなものなんだ?」

「真っ暗で、冷たい。無表情だったから、すごく怖いんだ。」

「そーッスね。桃先輩は見てないッス。」

乾がノートに記していくが仮定ばかりが埋め尽くす。それもそうだ。鉄則は疑われない事。
海堂もまだ、事実か判断しきれない。

「赤城…よく解らない女だな。氷帝からも構われてたし、Tシャツがなんでこうなるんだ?」

「それでも…許せない事に変わりはないよ。叩いたんだから。」

大石が困惑を隠せないが、不二は淡々と言って笑う。偽りを真実と疑わない、真っ直ぐな目。

「と、とりあえず…赤城を近付けなきゃいいよ。大会でしか、もう会わないだろうし。」

「それはそうだな。次に会うのは関東だ。王者立海も堕ちたな。」

何も言わなかった、いや。言えなかった海堂。
神速のナイフ使い、速すぎて見えない腕にある黒いリストバンド。それに意味があるのか、それさえも彼らは知る術が無いのだ。満は本気で殺意を抱いた時。やり口は母と同じだ。

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