紅花の咲く景色 | ナノ
疲るも笑みは有り


どうしても、と赤也をはじめとする立海レギュラーを満は説き伏せ、馴染みの雑貨屋へ行った。そこまでは良かったのだが。急いでいたからか、柄の悪い男達にぶつかって事を構えた現場をロードワーク中の海堂が目撃してしまった。
見事なまでの、玄人のナイフ捌きは目にも留まらぬ早業だ。加えて満は、速さを売りにしている。

「あーあ。このシャツ気に入ってたのに。汚れちゃった。」

疲れたような笑みでシャツを見ている満。実際部活後だから疲れているのだが、非常に怖い笑みに見えてしまう。

「お、おま、何を…?」

「あら?お久しぶりです。海堂君、でしたっけ?個人的な用事で来たのですが都内は物騒ですね。」

顔にも赤が付いていて、片手にはエコバッグ。片手には真っ赤なナイフ。不似合いにも程のある口調だ。人の事を、言えたものではない。
パトカーのサイレンが近付き、警官が満に敬礼して苦笑した。

「神奈川県警からご高名はかねがね。トラブル体質だそうですね。彼は?」

「静かに慎ましく生きたいのですけどね。彼は先日、顔見知りになった無関係の方です。」

疲れた笑みのままだから、反射的に海堂は挨拶をしていた。例えるなら

「これ以上切らせないで?ね?こっちもうんざりしてるんだから。」

と解釈出来る。

「あれ、コイツこないだ恐喝で出所したばっかじゃんか。あ、赤城さん達はもういいよ。顔拭いてね。」

「後はお願いします。」

満は深々と一礼して、少し離れた場所で顔を拭き始めた。何となく、海堂も一緒だ。

「…お前は、何者だ?」

「神奈川県警の方とは顔見知りなんですよ。母が医者ですし、私はストーカーを撃退した事で警察の方々の間では有名なんです。」

答えのような答えにならないような返事。謎かけではないのだが、見えないナイフ捌きは説明しようが無いのだ。満にとっては、当たり前に出来る事。
普通ではないと知ったのは小学生だったが、身に付いた以上反射的に使ってしまう。自分を守る為に。

「…なら、無視だとか叩いただとかは…?」

「年長者を無視出来るような育ちではありません。叩く必要がどこにあるのでしょう?こんな事を平然と出来る女ですよ。」

前半はともかく、後半はやたらと説得力のある言葉だった。
海堂に疑惑を持たせた事は結果として、吉と出るか凶と出るか。とりあえず、満は恐ろしいと印象付けるには充分過ぎる事件ではあった。

「王者立海に、挑む日を楽しみにしています。それでは失礼します。」

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