紅花の咲く景色 | ナノ
花を愛で


満が最も好きな花は、雪に映える寒椿。鮮やかな赤と雪の白によるコントラストが好きだ。
幸村がかねがね行きたいと言っていた、赤城家の庭は凄絶なまでに赤で統一されていた。

「凄いね…全部赤い花か実を付ける植物ばっかりじゃないか。」

「私の趣味ですよ。母は庭に関心を持ちませんし。父もそこまでは。私が生まれた日に植えた梅はまだ大きくないですけど、何の因果か紅色の花ですね。」

痛んだ蔓薔薇の花を切りながら話すが、幸村はきょろきょろと庭を楽しげに見渡している。
日本人が愛でる桜、春を告げる梅、冬を彩る椿、初夏に咲き乱れる躑躅、秋に鮮やかな南天と四季折々に愛でられる花々。
執念に近い。

「香りは気にしないのかな?」

「そうですね、あまりこちらは気にしません。病院側は楠木だけが香る気がしますけど。この蔓薔薇は比較的香りが強いです。」

赤の濃い薔薇を、あっさりゴミ箱に捨てる満を見て幸村は首を傾げた。
これだけ赤にこだわりながら、容易く捨てる事が不思議だ。

「まだ綺麗だった気がするけど、捨てるんだ。」

「痛んでいましたから。赤薔薇は白に比べると痛みが目立ちませんが、やはり綺麗な花を長く楽しみたいのですよ。」

慣れた手付きで、花を切っていく満に幸村は残酷さと美しいものを好む事に共感した。どんな花も、手入れして育てるから美しく愛着が湧くのだ。

「こまめに手入れしてるのかな?」

「いえ、毎年業者に2回頼んでいますよ。流石に桜は手入れ出来ません。お馬鹿さんの代名詞ですよ?桜切る馬鹿梅切らぬ馬鹿、ご存知でしょう?」

「知ってる。結構詳しいんだね。」

楽しげに幸村は笑った。消毒薬の臭いは相変わらず嫌いだが、満自身は嫌いではないのだ。

「雑草抜きは毎年私もしていますけどね。除草剤は他の植物にも悪影響があるそうで。」

「…意外だな。赤城さんってインドアっぽいし。」

「祖父母が亡くなるまでは夏休みに、母の実家に行って泥だらけになって遊んでいましたよ。よく怒られました。日が沈んでも遊び足りなくて。」

ただし、内容は凄まじいのだが。
山で即席トラップを作って引っ掛けたり、川で素手で魚を捕まえたり、かなりアウトドアだ。

「楽しそうだな。赤城さんもそんな事してたんだねぇ。」

「どんな小学生だと思っていたんですか。確かに折り紙で扇風機のコード切ったら物凄い勢いで怒られてから上達したと褒められましたけど。」

褒めるなよ。幸村は言い掛けたが言わなかった。
お土産に、と即席の花束を貰って少し赤也が好きになる理由が解った気がしていた。

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