紅花の咲く景色 | ナノ
朱の喜びとは


金曜の昼休みは怪我をすると、生きたホラーに会わなければならない。穏やかな笑顔の変態が手を拱いている。と立海で異常に満は怖がられるようになっていた。

「…っつ…足ザックリじゃな。柳生、今日金曜じゃったな…?」

「はい、金曜日ですね。歩けますよね?仁王君。」

にっこりと笑いかけ、絶対行かねーぞ、と暗に告げる紳士にあるまじき行為。実際に見た訳では無いが、満の楽しそうな治療は不気味だと専らの評判。ホラーが苦手な柳生はなおのこと嫌だ。
実物は一見清く正しく美しく、と教師からは模範生扱いでも。

「ちょっと肩貸しんしゃい。痛いんじゃ。」

「大丈夫ですか?」

手を差し伸べたが最後、仁王に力強く肩を組まれた。しまったと気付いても後の祭り。
一蓮托生、とばかりに仁王は足を引きずりながら歩き出した。

「保健室まででよか。赤也の彼女じゃし、変な事はせんじゃろ。」

「な、仁王君!?巻き込む気ですか!?」

「歩きにきぃんじゃ。なんかされたとか聞かんし、ブンちゃんも体験済みじゃから大丈夫ナリ。」

「歩けるでしょう。不幸中の幸い、保健室は近いですから。血が落ちていますから私は掃除をします。」

何が何でも柳生は保健室に行きたくない。大義名分もあるのだから利用しない手はないし、本気で怖いのだ。

「後回しじゃ。俺も手伝うけぇ、今は保健室連れて行ってくれんか?」

逃げ場を失った柳生。後はもう、何も起きない事を祈るしか道は無かった。

「すまん、派手にザックリ切ったんじゃが、手当てを頼む。」

「あらまぁ…校内でここまで深い傷は初めて拝見致しました。血痕が確実にあるでしょうね。とりあえずお掛け下さい。」

手早く準備を始めながら、仁王の足を見ている満。一般的な女子生徒であればすぐさま保険医を呼ぶだろうが、生憎満は医者の一人娘である。この程度ではたじろぎもしない。

「了解じゃ。」

「お手伝い出来る事はありますか?」

「では、血痕を片付けて頂けますか?もう出血は止まっていますし、意識もはっきりしていますから。派手ですが問題無く部活動に参加出来ますよ。」

にっこりと笑いながら、慣れた手付きで消毒を始める満。心なしか生き生きしているので、仁王達には異様に映る。しかし、これ幸いと柳生はティッシュ片手に立ち去った。

「いっ!」

「雑菌が入っていますね。少々痛いですが我慢して下さい。」

楽しげに満は手当てに励んでいる。
確かに腕はいいが、如何せん嬉しそうなのが不気味でならない。

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