紅花の咲く景色 | ナノ
無視は命取り


図書館は、読書や勉学に励む生徒向けに開かれた素晴らしい蔵書を誇る。深謀遠慮を巡らせるには、もってこいの場所だ。

「柳先輩、ご相談したい事があるのですが。」

「あの女子か。赤城の事をあちこちから聞いて回っているらしいぞ。」

「お話が早くてこちらとしては有り難い限りです。少しばかり、情報を流して混乱させたいのですが。」

本を選びながら、小さい声で陰謀を相談。満とて好きな本ばかりを読む訳では無いし、常連同士だから疑われない。

「既に出回っている話は変えられないぞ。」

「存じております。そちらは仁王先輩がお得意でしょうし、何より事実を全てお話したのは赤也と柳先輩だけですから。」

「正解であり不正解でもあるな。それで、問題があったのか?」

「母を脅す腹積もりらしいと小耳に挟みました。それだけは回避したいのです。誰が言い出したのかはともかく…母を狙うなんて。失策にすらならない、愚策です。」

思わず柳は本を落としてしまった。満の母であり、師でもある人間を脅すなど命知らずにも程がある。

「表向きはいい医者だからな。俺も聞くまでは想像すらしていなかった。」

「でしょうね。突然変異で肌を切らずに服だけ切れるなんて有り得ないと勝手に思い込んでいました。」

柳が落とした本を拾い、埃を払う満はいつも通りに見える。平然と出来るぐらいに、修羅場は越えた。
柳は軽く息を吐く。まだ満程、荒事に慣れていないのだ。

「女子にはよくある話だが徒党を組んでいる。あぶり出すか?」

「ご協力を、して頂けるのですか?」

満から差し出された本を受け取りながら、柳は平静を保つ為に、少し早口で言った。

「乗りかかった船どころか完全に乗っているし、赤城のやる事を黙って見ていられる程悪人にはなれないからな。」

それに満は小さく笑う。満が3月から作り始めた、独自の組織を調べたがっている事は聞いている。
動揺している事も明らか。愚鈍では、柳や仁王を出し抜ける筈がない。

「では、既存の噂に追加事項を。赤也は私に脅された訳ではない、と流して下さい。事実ですから。」

「…呆れるぐらいに相思相愛だな、お前達は。」

「私は大好きですよ。一回危うく赤也の選手生命を断つところでしたが。」

「対処方法はもう解っている。もう目を覚まさせるだけだな。」

「私は眠らせていて欲しいです。それでは、失礼します。」

貸し出しカウンターに向かう満を見送りながら、柳は小さく呟いた。

「出来れば赤城は一生寝かせておきたいぞ。」

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