紅花の咲く景色 | ナノ
持ちつ持たれつ


予想を裏切らないと言うかお約束と言うか。見目麗しい転入生は、見目麗しいレギュラー達に目を付けてファンクラブと一緒に声援と言う名の騒音でレギュラー達を辟易させている。

「はぁ…赤城さん、悪いんだけど万年筆持っていいから黙らせてくれない?イライラしてきた。」

転入生のお目当ては赤也らしく、かなりうんざりしている。休み時間は赤也の話を聞きに、寄って来ると満も聞いた。

「解りました。幸村先輩も苦労しますね…。」

「真田がキレる前に。ジャッカルと赤也が八つ当たりされそうだしね。調子付いて周りもうるさいし。」

長らく第一線から退いていた、幸村の代理として真田も真田なりに頑張っていた名残だ。
部室に向かい、カバンから文房具を取り出して装備する。そしてフェンスに張り付く女子生徒達に笑いかけた。

「皆様、お静かにお願い致します。」

満の評判と、葉っぱや花まで付いていそうな噂を信じている、大概の女子生徒は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。残ったのは知らない転入生だ。
凄まじい嫉妬の視線を満に注いでいる。幸村に笑いかけられていた満を、敵視しているのだ。

「…何よアンタ。幸村君に話し掛けられて。特別扱いされてると思ったら大間違いよ。」

「まぁ、それはそうですが先輩は私の噂をご存知ないようですね。血を好み、母に付きまとうストーカーを撃退した変態保健委員であり、万年筆の流行の火付け役なのですが。」

「そんな事信じられると思ってんの?生意気な口、叩けなくしてやるわ!」

真田の鉄拳程では無いが、平手打ちが満の頬に浴びせられた。テニス部員は心で合掌しながら、練習を続けている。

「っ…痛いですね。これでおあいこにしましょう。玉の肌は傷付けていませんから。」

万年筆が日に輝いていた。いつの間に持っていたのかと、目を見開く転入生だがはらりと制服が破れた事に気付いた。
ナイフではなく万年筆で切られたのだ。悲鳴を上げてしゃがみ込む。敵意の欠片も無かった。

「ご自慢の花の顔は傷付けませんから。お早めにお引き取りを。」

「このままじゃ終わらせない!覚えてなさい!」

逃げ出した転入生を眺めながら満は呆れて呟いた。

「覚えませんよそんなありがちな捨て台詞言うような人。…あ、目当て確認するの忘れてた。」

その後、幸村には礼を言われ思いっきり笑っていた。ベタだ、と。

「いやぁマンガみたいな事言ってるね。万年筆も久しぶりだったし。」

拍手をする幸村。怖いもの知らずの転入生に向けたのだろう。

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