紅花の咲く景色 | ナノ
理解し難い美学


必要に駆られれば、傷付ける事も厭わない満の校内でのやり口は、常識では考えられない。
教師陣に訴えたところで一笑に伏されるだけだ。見た事が無ければ信じがたい。

「赤城さん。あなたにとって、傷付ける事はどういう事なのですか?」

部活ではトイレで体育服を着て、帰る時はそのまま顔を洗うだけの満は赤也を待っていた。
そこで、常々疑問を抱いていた柳生は直接聞いた。答えは満しか持ち得ないのだから。

「生き抜く為に、自分を守る為にと母は私に教えられました。私にとって、それは手段でしかありません。欲望のまま切るなど有り得ません。傷付けられずに覚えた技でもありません。例えば柳生先輩、先輩も手に肉刺が出来るまでラケットを振るでしょう?一切の努力無く、身に付くものはありません。」

無論、母や祖父母から身を以て叩き込まれた。動体視力を鍛え、見て盗みながら自分に合う技を選ぶ。
最初は遊びだが、次第に磨くようになる。教える事を始めたのは曾祖母。万が一の事態に備える、真に生き抜く手段だったのだ。祖父は独学だが医者だった。人体を知り尽くしたからこそ成せる技。
それぞれ己の美学を貫き通していた。だからと言って正当化する気は、誰にも無い。罰される覚悟をして刃を振る。
現在は、疑いの余地を与えない事に、重きを置いている。正当防衛であり、力無い女子中学生であると印象付けている。小さい傷で激痛を与える術も、独学ではない。

「…罪の意識は、あるのですか?」

「多少はあります。ですが私はやられてからやり返すようにしています。流石に男性から喜んで殴られる趣味はありません。出来れば使いたくはないですよ?でもこうなった以上、私は私の美学を貫きます。」

「美学?そんな事に美学などあるのですか?」

潔癖でもある柳生は、嫌悪感を隠せなかった。罪はどう言っても罪なのだから。罰を与える権利など持ってはいない。

「ありますよ。母は長く生きられなかった、私の伯父に当たる兄を救いたかったのです。私は私の守れる好きな人達を守る為なら。曾祖母の願いを引き継いでいるようなものです。」

母親は救いたかった妄執が高じた、悪趣味を持つ。
満は趣味と言うよりは副産物を見て楽しむ。だから好戦的ではないのだ。望めばそれこそ幾らでも見れるが自分のものでも楽しめるのだから。
その点ではどう足掻いても相容れない親子だが、互いを利用しあう。疑われずに望みを叶えようとする満はかなり強かで狡猾な一面を持つ。

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