紅花の咲く景色 | ナノ
朱が欲しがる
赤也が初めて満の家に行ってから数日。
休み時間にのんびり、次の授業の準備をしながら話す光景は当たり前になっていた。
「はぁ…血が足りない。」
「満、独り言でも怖いから止めろ。みんな知ってても怖い。」
赤也の言葉に目を潤ませ、今にも泣きそうな顔で満は盛大に訴えた。
「だって昨日の患者さん、肝炎持ちだったんだもん!悔しいわ!若かったのにあの年で肝炎なんて!薬剤会社は何をしているの!」
赤也には全く解らない世界の話だ。しかし、要は味見が出来なかったのだろうとパターンは解る。
後ろ暗い立派な違法行為だが、急患限定で医療助手をしているのだ。
「よくわかんねーけどちょっと落ち着け。若かったのにって何する気だったんだよ。」
「お母さんの手伝いと勉強も兼ねて患部付近の血管調べるの。個体差があるから難しいのよ。でもやっぱり切るなら健康で若いのが一番だわ。」
半ば見惚れるように赤也の利き腕を見つめる満だが、非常に嬉しくない見惚れ方だ。咄嗟に赤也は腕を隠して叫ぶ。
「うっとりして俺の腕を見るな!セリフ考えると良くない気がするから!」
「真田先輩でもいいよ?手応えありそうだし。ただ不自然じゃない事してもらわなきゃね。」
顔色を変えた赤也は窓から顔を出して三年のクラスに向けて叫んだ。真田が危ないのだから、惚れた満の頼みでも聞けない。
「真田副部長ぉぉおおお!!変態が狙ってるっすぅぅぅ!マジ逃げて!満短距離化け物だから!」
「お母さんよりマシだってば。あんなの正気の沙汰とも思えないし。」
にっこりと笑いながら実母を貶す娘。変態の背比べとも言える。
「満んちもう行かねぇから!絶対!」
「私の部屋普通じゃない。何で?」
「古今東西の刃物壁に飾る部屋のどこが普通だ!」
母のコネと少しずつしている貯金で集めた槍や刀などの美術品。ちゃんと申請はしている合法だ。
しかし、クラスメートはそれらを振り回す満を想像してしまった。
「美術品よ?ちゃんと申請もしてるし、錆びた奴は綺麗にしてるし。大変よ?維持するのも手入れも時間かかるし。」
「振り回しそうだから嫌なんだよ!」
「するワケ無いじゃない。切る為の手入れはしてないんだから。」
そうでなくとも、満には不穏なイメージがついて回るのだから信用出来ない。刃を潰されている物の方が多いのだが、赤也に鑑定眼があるはずも無い。
「満、母ちゃんとチャンネル争奪戦に負けると手入れすんだっけ?」
「うん。宿題終わってからだから。」
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