紅花の咲く景色 | ナノ
命からがら


食べ物の恨みはこの飽食の時代であっても、恐ろしいものだ。
ましてや目の前で好物や狙っていた獲物が奪われたとなると、誰でも不機嫌になるだろう。だが、不機嫌丸出しの人物に問題がありすぎた。

「…き、切原君。赤城さんの目が据わっているのですが何があったのです?」

「満の目の前で、丸井先輩が最後のメロンパン買っちまったらしいッス。部活もこんなんでしょーね。」

良くも悪くも、小さい事には素直な満。
ピリピリとした空気に慣れている赤也は呆れて、3年レギュラーは冷や汗を流している。満と昼休みや部活を過ごしているが、慣れない。嫌な汗をかく事が多々あるにも関わらず、だ。

「ねぇ赤也。リストカットってあるじゃない。アレって切り落とすぐらいの勢いが無いと成功しないんだって。何使ったら成功するかなぁ…?」

「部長命令!総員退避!今すぐ!」

「冗談ですよ幸村先輩。」

そんな冗談を食事中に言うな!やりそうだから怖いんだよ!などと言いたいのは山々だが、弁当やパンを抱えてレギュラーは逃げた。凶器にならないペン以外は相変わらず危ない。
選手生命は勿論、命が。

「うわ、手の汗すげぇ。赤城の前で取るの止めとこ。アレ怖すぎ。」

「背筋が寒いってコレなんだな。体験するもんじゃねぇ。」

音声とその後は見たが、満の技術は玄人と言える代物なのだ。
シャツやハンカチで汗を拭うレギュラー。笑い事にならない恐怖、体現し実行可能だと知っているだけに辛いのだ。

「先輩達、満はやられたらやり返すんで殴ったりしなきゃ大丈夫ッスよ?今日はコンパス使う授業ありましたけど。」

あっさりと言った赤也に、思い切り顔色が悪くなった3年レギュラー。
まさに命からがら。

「コンパスなんてなんでそんなもん…。危なすぎじゃき。」

「仁王、コンパスは数学なら使うだろう。折れないように使うとしたら恐ろしい話だ。」

「うむ。油断大敵だな。今日は赤城に注意を払わねばならん。」

赤也はそこまで危険視していないが、赤城家の日常会話はかなり物騒だから慣れているのだ。
耐性がないメンバーは、部活中ずっと満を警戒していた。ちなみにランニングを終えると、スッキリサッパリ忘れていた事が不幸中の幸い。
誰も話し掛けなかったので走る事に集中したのだ。赤也は真田に怒られるから、話し掛けられない。機嫌の悪い満を、何とかする方法として走らせる事は採用された。

「お昼楽しみにしてたパンとられたぐらいじゃ実力行使しないのに。」

「満、話題が怖いから。満んちルール普通じゃねぇから。」

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