紅花の咲く景色 | ナノ
試合に勝って


昼休みの購買は、生徒達にとって早い者勝ちの戦場に変わる。
年功序列など無いものであり、この場なら満も怖がられない。全員が望むパンを手に入れる為に必死だからだ。

「…なぁ満。なんで丸井先輩が満の膝見てんだ?」

「最後のメロンパン私が買ったからかな?食べ物に罪はないよ。」

にっこり笑ってパンを持ち上げる満。同時に丸井の視線もパンと移動した。最後のメロンパンを巡って、争ったのだ。

「裏技?」

「使う訳無いじゃない。そういう事はうちじゃ習わないもの。命懸けじゃないんだから。」

「姉貴が貸した恋愛モノで目ェ真っ赤にしたんだと思うけど、周りよくビビらなかったな。」

呆れたように赤也が言っても説得力は無い。赤目が怖いと言われるのは、赤也が始まりなのだから。

「危うく朝ご飯作り損ねるところだったわ。」

「満、ホントありがちな悲恋で泣くからなぁ。」

長閑に話すバカップルだが満の泣きどころが意外過ぎて、柳はノートを開いて書いていた。量産しかねない真似が出来るのだから。
三次元の悲恋は興味すら示さないクセに、悲恋の小説には滅法弱い。生い立ちも少なからず関係しているのだろう。

「プロレタリアでもファンタジーでも読むし。一番は病院系だけど、たまに恋愛小説は読むからいいの。さて、デザート。」

メロンパンの袋を開けた満に、丸井は恨めしげな視線を向けたまま呟いた。

「俺のメロンパン…。」

「ブンちゃん、おんしが買うたワケじゃなかろ。諦めんしゃい。」

「赤城、気にすんな。丸井よくこんな感じになるからさ。」

「明日買えばいいのにね。ブン太もこういうとこあるから真田に叱られちゃうんじゃない?」

和んでいるレギュラーだが満は居たたまれない。でもメロンパンは譲りたくないので、妥協案を出した。

「丸井先輩、今度お勧めのお店で、手作りのメロンパン買ってきますから…。それで手を打って下さい。居たたまれないです。」

「赤城さん、一つで充分ですから。ご存知でしょうが丸井君は血糖値が高めなんです。」

「すまんな、赤城。丸井は下らん事にこだわる事がある。」

「乗った!赤城がお勧めって事は結構美味いだろ!ちなみに場所も味次第で聞くから!」

甘いものが大好きな丸井はかなり、簡単に釣れた。有言実行の満は、ちゃんと約束を果たして一息吐いたのだが。

「なぁ赤城、今度赤城のお勧めケーキ屋案内してくんないか?バイキングやってるとことか。」

無自覚でデートを申し込まれていた。当然、赤也が却下したが。

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