紅花の咲く景色 | ナノ
後悔役に立たず


体力が無かったのだが、暫くすると先頭集団に余裕を持って、悠々と走るようになった満。
素養はあったのだろうが、常識では考えられない。

「凄いね赤城さん。元々運動してたからかな?」

「後は走って登校するようになりましたからね、母の勧めもありましたし今後に生かせるかと。」

「…怖い方向に生かさないでくれると嬉しいな。」

切実に、平和がかかっているので頼める内は頼んでおくべきだ。

「ただ、問題は無意識なのでしょうが周囲の気配を数えてしまうのです。いつもは抑えているのに…困りますね。」

「ゴメン、悩みが理解出来ないよ。原因は言わないでいいから。」

「それにしても、幸村先輩は私の消毒薬臭さがお嫌いだったのでは?」

「うん、嫌い。でも赤城さんとは何だかんだで話が楽しいから。」

走っていれば、気にならないらしい。趣味が合う訳でも無いのだが、何故か考え方が合う。立海二大破壊神と言えるかも知れない。
イップスでボコボコにする幸村と、致命傷を与えず一瞬で切る満。極力敵に回したくない幸村より、満の方が命がかかっていて怖い。

「柳先輩からお聞きしましたが、家の庭に興味がおありだそうで。その内ご覧にいらっしゃいますか?」

「いいの?それは嬉しいなぁ。」

「今は蔓薔薇が咲いていますから見頃ですよ。」

「じゃあその内。行く前には連絡するね。」

「はい。幸村先輩は安全ですから。」

どういう意味だ。幸村は少なからず不安になったが、安全だと言われているので気にしない事にした。
聞かない方が幸せな事が、赤城家には多すぎる。

「でも本気でレギュラーと同じ速さでランニング出来るって、俺驚いたよ。頑張っても平と一緒かなって思ってたし。」

「意地ですよ。ランニングしかしないのですから、レギュラーの皆さんよりは体力無いですけど。」

意地でそこまでやり遂げるお前が凄いよ。周りのレギュラーの気持ちが、無意味に一つになった。
一つになってもどうしようも無い事なのだが。

「最初は無理に飛ばしてヘトヘトだったのにね。」

「年齢を考えると、私は来年まで基礎体力を上げておかないと厳しいそうです。きっかけが無ければあのままだったかと。」

言わなきゃ良かった。幸村は心の底から後悔した。満はいい意味でも悪い意味でも、予測を超える。
柳がデータ集めに苦労する訳だ。成績優秀である事は紛れもないが、策士であり刃物でなくとも尖っていれば凶器に変える。

「ジャッカルを超える日も近そう。」

「肺活量は無理です。」

意外にあっさり白旗を上げていた。

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