紅花の咲く景色 | ナノ
大切な事だけど


何かと便利な十徳ナイフ。爪ヤスリやハサミ、ドライバーなど多岐に渡り使える優れものなのだが。
持っている人間次第では物騒な物に様変わりする。

「あれ?赤也ワックス変えたの?」

「たまたま特売やってたから。つーか、何かポケット重そう何だけど板外してんの?」

昼休みに相変わらずイチャイチャしていた2人。しかし、ポケットから満が取り出した物に全員が注目して固まった。
すっかりリストバンドには慣れているようだ。

「あら、十徳ナイフを入れっぱなしだったわ。イヤだわ私ったら。」

膝枕を堪能していた赤也は血相を変えて、起き上がると満からナイフを取り上げた。

「便利だからって持ち歩くなって言っただろ!しかもでかい方じゃん!」

「だってこっちのハサミとボールペンが使いやすいんだもの。小さい方には爪ヤスリが付いてるけど。」

「頼むから学校には持ってくんな。変な事やりそうだから。」

万年筆でも充分怖いのに、アーミーナイフの別称を持つ十徳ナイフを持ち歩かれては気が休まらない。
満は心底不思議そうにしている。学校で流血沙汰は起こしていないからだ。

「…流石の俺も肝が冷えたぞ。」

「真田、全員だから大丈夫だよ。十徳ナイフって多機能なんだね。名前だけでも赤城さんには持たせたくないけど。」

「十徳ナイフ、別称アーミーナイフと言う。スイスのブランドが有名で、赤城は2つ所持しているそうだ。ノコギリや栓抜きが付いている物もある。元は陸軍向けの品だ。」

現実逃避も兼ねて、柳が解説をする。かなり歴史ある品だが、怖さが助長されている。幸村以外は出どころを知っているのだが、やっぱり持ち歩いては欲しくない。

「変な事って…これ今朝制服のほつれを切っただけなんだけど、想像力豊かなのねぇ。」

満とて、その手の事には疎い女子中学生で優等生である。思春期の男子中学生が何を考えるなど、本の知識しか無い。

「あー…うん、想像力豊かかも。」

顔を赤くして目を逸らす赤也に、満は目を丸くした。さっぱり解らない。

「柳先輩、赤也はどうしたんでしょう?」

「…ノーコメントだな。」

あっという間に、ほのぼのした雰囲気になってしまったバカップル。不穏と平穏が同居している。
柳も察して乗っているが、平和が一番なのだ。

「とりあえず、十徳ナイフは持ち込まないようにして下さい。」

「うん、真面目に怖いから止めてくれ。」

「赤也もチェックしといてくれよ?」

口々に赤也に頼むレギュラー。止められるのは赤也だけなのだ。

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