紅花の咲く景色 | ナノ
朱を恐れる


その13日の金曜日に、丸井は運の悪い事に怪我をしてしまった。
金曜日の昼休み、保健室は事実に基づいたホラースポットと化している。だが根も葉もない噂が流れているのだ。
血に飢えた吸血鬼が保健室にいる、怪我を余計に増やす又は悪化させる保健委員がいるなど。

「擦り傷ですね。見た目は派手ですがちゃんと消毒すれば大丈夫ですから。少ししみますよ。」

戦々恐々としている丸井を余所に、手際よく手当てをしていく満。さり気なく指先に血液を付着させている辺り、趣味と仕事を両立させている。

「香りは馨しく、その色は何よりも美しい…はい、処置完了しました。丸井先輩、名簿にご記入をお願いします。」

「フツーに怖いから止めてくれ。保健委員。」

今すぐ逃げたいと王者と謳われるレギュラーに思わせ、顔を強張らせる恐ろしさ。
指を舐めながら穏やかに笑っている満が非常に怖い。生存本能は誰にでもあるのだ。

「そうですか?別に危害を加えるつもりはありませんよ。学校で警察を呼ぶような騒ぎを自発的に起こす予定もありませんから。」

「怖いって!」

後輩だと解っていても怖いものは怖い。薄気味悪いと言うのが正確なのだろうが、丸井にとって大した差ではないようだ。

「実害はありませんから。あ、そう言えば彼氏がお世話になっています。」

名前を書いていた手を止める丸井。怖いだけでは済まなかった。ぎこちなく顔を向ける。

「…彼氏?」

「えぇ。切原赤也君です。仲良くさせて頂いていますので。丸井先輩にも何かとご迷惑をお掛けしているでしょうね。すぐカッとなっちゃいますから。」

にこやかに話しながら、満は手際良く治療器具や使用済みガーゼを片付ける。丸井としては笑い事ではない。金曜日の保健室は怖い、と噂では聞いていたが…身近な恐怖だと予想もしていなかった。

「赤也の、彼女…?」

「お付き合いさせて頂いています。申し遅れました、私は赤城満と申します。一年生の時に、万年筆で有名になってしまいましたけれど。」

いい意味で割と有名になった、勇気ある立海の模範生。
親族に付きまとうストーカーを見事捕まえた武勇伝は、全国に立海の名を知らしめた。ただし知人の間では意見が間逆になる。

「そ、そっか…赤也がよく言ってたの、お前だったんだ…。」

「恥ずかしいから止めてとお願いしているんですけどね。」

丸井は教室に戻ってから、赤也の趣味が悪すぎると散々言ったが、かなり今更な話だと仁王に切り捨てられていた。

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