紅花の咲く景色 | ナノ
朱は柔らかく
朝。赤也は朝練を終えて目が覚めている。
教室に行けば、大好きな彼女である満が複雑そうに本を読んでいた。少なからず赤也は嫌な予感がしてならない。
「おはよー満。どうかしたのかよ?」
「あぁ、お早う。昨日の急患さんがね…メタボで刃物を新調しなきゃいけなくなっちゃって。脂肪でダメになったの何本目かしら。タダじゃないのに。」
あぁやっぱりろくでもない理由だった、と赤也は軽く溜め息を吐いた。満はとても残念そうに目を伏せて、理由を聞かなければ物憂げな風情だ。
「でも舐めたんだろ?」
「それはまぁ、そうなんだけど脂っこくて好みじゃなかったから。理想は遠いわね…。」
その理想が居たら一滴残さず絞り取りそうなので赤也は首を勢い良く振る。人の命が掛かっているから切実だ。
「明日金曜だし、満当番だろ?まぁ…あんま来ないだろうけど。」
「怪我が無い事はいい事じゃない。節操のない真似はしないから安心して?」
にっこりと笑う満が果てしなく怖いクラスメート一同。
赤也と付き合い始めて約二週間、赤也のファンから親の敵の如く睨まれ続けている。しかし、仲睦まじい事を知っているのは限られた生徒だ。
「満の母ちゃんも話だけだと相当な変態だよな。」
「悪趣味よ。お父さんも止めてくれたら良かったのに残念。」
「満はお父さん顔ぐらいしか知らないだろ。」
「だから、よ。さて、今日は大好きな英語があるけどちゃんと宿題して来たのかな?」
ころころと変わる、豊かな表情。それだけなら周りはどれ程苦労しないだろうか。
嫉妬に駆られた者をボールペンやシャーペンなどの鋭利な金属で傷付けずに脅し、退けているのだから。趣味と特技を除けば文句無しに明るい子と評価も高い。
「して来た!満褒めて!」
「宿題はやって当たり前だと思うなぁ…。ローマ字も怪しいんだし。」
満面の笑みで赤也がねだると、満は頭を撫でながら苦笑した。
学年首位の満は家業を継ぎたい、と勤勉学生だ。長く続く外科医の家系だが、何かと怖い逸話が必ずついて回る。
「でさ、どーしても解んなかったとこあっから教えて?」
「…一年生の復習だった気がするけど。」
きょとんとした満に赤也は嫌われたくない一心で弁解する。変態だろうが怖がられる特技を持とうが、満は大好きな彼女なのだ。
時折、何故好きになったんだと自分を疑う事もあるが難しく考えない。
「ワズって何?」
「過去形ね…。授業始まるまで付き合うわ。」
大変仲睦まじい、流血カップルの朝。
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