紅花の咲く景色 | ナノ
悪魔と死神の涙


見えない恐怖よりも、見える身近な恐怖に怯える事は臆病ではない。逃げ出す事が臆病なのだと真田は部員に説いた。

「ふざけんじゃないわよこのワカメ野郎!こんなの返すので精一杯だから!」

「テメェ、赤が好きだったよな?染めてやるぜ!」

自主練、と言う事で満は無理矢理赤也とラリーをさせられていた。
赤目になった赤也のナックルサーブに、何とか反応してギリギリ返す満に部員は驚きを隠せずにいた。確かに初心者なのだが、鍛え上げられた反射神経と動体視力はピカイチだ。
身軽さも手伝っているが、満はスタミナが無い。汗だくで本能的にボールを返している。楽しいどころではない。

「赤也!どういうつもっ!?」

ラケットを片手に赤也へと詰め寄った満の首を、悪魔化した赤也は握った。
慌てて平達は真田や柳を呼びに走る。あんな赤也は初めて見たから、両者共に危険だと判断したのだ。
赤目になった段階で、止めるべきではあった。

「真田副部長も柳先輩も仁王先輩も満を気に入ってさぁ…。お前俺の彼女だろ?これなら離れらんないよなぁ?手段なんか選ぶなって満も言ったしな。」

「グッ…ヴ。」

満の手には、一本の万年筆がある。意識が遠ざかりそうな中でも反射で出していたのだ。
日光に光る万年筆が閃く瞬間、赤也は真田に突き飛ばされた。満は柳生が支えている。

「馬鹿もん!赤城とは言え女子に手を上げるとは何を考えとる!」

「間に合って良かった。大丈夫ですか?赤城さん。すいません、誰かタオルを水に濡らして来て貰えますか?」

咳き込んで息を整えた満を見て、やって来た柳は息を呑んだ。
凍てつくように冷たく、そして明確な殺意を宿した目を一瞬見た気がしたのだ。仇なす者には情け容赦しない、必要ならば手段も選ばない殺人鬼。満に流れる、真紅が黒に染まりそうな家系図の血。
幾ら穏健派だと知っていても、蛙の子は蛙。凶暴性が全く無い訳では無いのだ。

「いた…。柳生先輩、有難う御座います。あのまま腕を振ったら…私は赤也の腕を…!」

ぼろぼろと涙を流し、口を押さえて嗚咽を堪える満。柳生は満の背を撫でた。

「いえ、赤目になった段階で部員が先に気付くべきでした。本当にすいません。赤城さん、どうぞこれで冷やして下さい。」

真田にこってり絞られた赤也だが、赤目になってから全く覚えておらず満に平謝りしていた。
満は、ワカメ野郎と言った後に異変が起きたと柳に報告する辺り、よくテニス部と赤也を考えている。

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