紅花の咲く景色 | ナノ
一方的なライバル視


満は凄まじいまでに、祖父母はもとより母にまで徹底した教育を受けた。
小学生にして人体急所を知り尽くし、母とは違い祖母の影響を絶大に受けたお婆ちゃんっ子だ。

「あら、久しぶりーあっくん。この間の怪我は完治したようで良かったわ。」

都内に買い物へ行った。それはいいのだが、なにぶん見た目は清楚な少女だ。
裏路地を使えばごろつきに目を付けられ、返り討ちにする。バタフライナイフを持ちながら笑う姿は、非常に恐ろしくおぞましい。

「その呼び方は止めろつってんだろ、神奈川の変態が。」

「か弱い女の子に酷い言い草ね。この前借りは返したし、お互い様にしましょうよ。」

「真っ昼間からナイフ振り回すか弱い女の子なんざ認めるか。」

可愛らしく首を傾げた満だが、返り血で効果は全く何処にもない。
亜久津は歩きながら、満との間合いを詰めていく。互いに近距離戦を体得し、亜久津はリーチで満に勝る。だが満は、中距離戦もこなす。
生まれながらに血塗れの系譜を引き継ぐ娘だ。

「こんなにお行儀良く生きてるのに、あっくんは私をどうしたいの?」

「とりあえず殴らせろ。」

「嫌よ。見逃してちょうだい?お買い物も途中だったのに楽しませてよ。」

柔らかい笑みを浮かべ、ナイフを亜久津に向ける。限り無く黒に近い灰色の犯罪者予備軍である満は、反撃を許せば必ず負けると阿久津は知っている。
亜久津の間合いギリギリに満は立つ。そして2人の足元には、傷を押さえて呻く男達。

「殴ったらな。」

「もう…あっくんはすぐ暴力に訴えるし、困るんだけど。」

両利きの満は、ナイフを持たない方の手で口元に手を当てようとした。目も伏せて、隙を見せる。

「隙だらけだっ!?」

殴りかかろうとした亜久津の腕に、ダーツが浅く刺さった。一瞬で満が放ったもので、気を取られた。
瞬発力には自信のある満はすぐさま駆け出し、安全圏まで行くと亜久津へ笑いながら手を振った。

「じゃあねあっくん。後はよろしくー!」

「テメェ赤城!待ちやがれ!済ました面ブン殴ってやる!」

「無理よ。警察呼んだしあっくんは無関係だって言ってるから。」

そして姿を消した満に、亜久津はダーツを抜くと力いっぱい握り潰した。
スタミナは無いが、短距離は陸上部顔負けの速さ。追いつける自信は無いし、別の嫌疑を掛けられる。

「あのアマ…どこにこんなもん持ってやがる。」

まだ長袖だから、色々と仕込める。夏は一応満も苦心しているのだ。
母方の血筋の鉄則に忠実な美学を持つ女子中学生。


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