紅花の咲く景色 | ナノ
似るのか似ないのか
昼食後は、赤也が満にくっ付いて離れない。金曜日の昼休みがよほど寂しいらしい。
しかし、満についてあれこれ聞かれるのだ。
「満の母ちゃんだけは!何があっても!絶対敵に回しちゃいけないッス!」
「悪趣味だからねぇ。本当に私と母は趣味が合わなくて困ります。」
「いや、合ったら怖いじゃろ。」
真剣に語る赤也に、のほほんと頷いた満だが内容が内容だ。好きな手口もテレビ番組も合わない親子。
「昨日は真面目に悪趣味葬ろうかと思いました。私は救急救命室を観たいのに母はミス・マープルが観たいって!」
どちらも洋画だが、ミス・マープルは推理小説を映画化したものだ。古い。
「あぁ…いつものチャンネル争奪戦か。」
「それだけ聞くと素晴らしく平和ですね。」
争奪戦の内容が、凄絶なのだ。一歩間違えば文字通り血塗れの争奪戦になる。
「昨日は勝ちましたけど母は部屋に引きこもって私が寝るまで出て来ませんでしたよ。何か言ってましたから、愚痴を零していたのかも知れませんね。」
「お父さんか?」
「赤也、頼むからそれ以上言わないでくれ。生ホラーはイヤだ。」
「ジャッカル、それ全員だと思うぜ。見に行かなくて良かったって。」
満の母の部屋は、立海テニス部レギュラー内で禁断の部屋であり、他言無用となっている。
蛇の道は蛇、となるのだ。
「話の腰を折るが、DVDを借りる選択肢は無かったのか?趣味がよく解る番組選択だが。」
「満んちテレビ一個しか無いッスよ。」
「そーいや無かったような気がする。赤城んち金持ちなのに。」
「いい意味で有名ですね。優しいシングルマザーの医師だと。」
「近場だが数える程度しか行った事は無いが…まさかあのような事をする先生とは露ほども思わんな。」
真田と同じ小学校の満。
当時はそこまで怖がられる事は無かった。勉強も運動もよく出来る優等生で、明るく友人も少なくなかったのだ。
立海受験で離れ離れになったが、メールはよくしている。
「因みに、DVDプレイヤーも一台で母はパソコンが苦手なのと画面が小さい事が嫌で私がたまに使う程度の古いものです。」
「満んちのテレビでっかいからな。慣れると俺んちのちっちゃく感じる。」
そのテレビでやりたいからと、赤也はゲームを持ち込む事もある。
「11時までゲームした事あったものね。付き合わされる身にもなってよ。」
「満のツッコミ楽しいからさ。」
グロテスクなリアリティ溢れるツッコミにすら、赤也は慣れていた。
ただし、満は初心者だ。
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