紅花の咲く景色 | ナノ
朱に交じるもの


屋上での穏やかな昼休み。満が来る前に行われた会話は満への恐怖をひたすら煽るものだった。

「柳先輩、何で俺じゃなくて俺に化けた仁王先輩なんすか?満騙すの難しいッスよ?」

「少々気になる事があってな。赤城に聞いたのだが、小学校時代から入り浸っていた孤児院では全員が生きる知恵を教えられるそうだな。」

「釣りとか星の見方とか山登りやるって聞いたッスよ。楽しいって。あ、忘れてました。真田副部長、満に狙われてるッス。」

どうしてそんな重要な事を忘れるのか、と言われそうだが。殺人予告では無いのだから赤也も重要視しないのだ。柳もさして注意を促しているようには見えない。
全く無駄の無い処置の最中に味見は終わる。プレッシャーは凄まじいが手出しはしない。

「む、そうか。」

校内で満が意図的に危害を加え、怪我をさせた事は一度も無いのだ。
軽くぶつかって互いに転んだり、誤って本を取り落とし、ぶつけたりする事故は稀にある。常に満が気を張っている訳では無いのだから。

「怪我しなきゃいいだけなんだよな。」

「ジャッカル先輩も危ないッスよ?ハーフの味は試してないって。」

「そのまま試さないで頂きたいものですね。」

全員を代弁して、柳生が重々しく呟く。生き生きと治療する満が本能的な恐怖を抱かせるのだ。

「大丈夫ッスよ?たまに変質者捕まえてストレス発散って笑ってるッス。」

「趣味と実益を兼ねたストレス発散だな。赤城にだけは、刃物を持たせたくない。万年筆すら凶器になる女だからな。」

通常、万年筆で切ろうにも先が曲がる。そこを強化して、ブームとなった護身用万年筆は爆発的に売れているのだ。

「確かに万年筆の先は鋭いですが、切るには無理があるのでは?」

「満、針でゴキブリ仕留めるんすよ。触りたくないからって。」

女の子らしいのか、はたまた化け物じみているのか判断に苦しむ技。針一本で動きを封じ、手袋を填めてから捨てるのだ。

「…へー…ゴキブリ嫌いなんだ。」

「丸井。嫌がらせは止めておけ。赤城の刃物を扱う腕は未知数だ。」

「蓮二も深入りは止めておけ。模範生として勇気ある行動をとった女傑かも知れんぞ。」

嫌がらせではなく、怖いイメージが先行して化け物のように丸井は思っていたのだ。それが少し払拭されただけである。

「柳先輩、女傑ってなんすか?」

「言動や行動が大胆で優れた働きをする女性、が辞書では一般的だな。これは余り使われない単語だ。」

そして、屋上のドアが開いた。

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