粗品 | ナノ
化け猫と怪獣
夢見る羊の毛刈り場のひつじ様に捧げました。
秀吉の愛猫と私のお気に入りゴジラさんの混ぜものです
「家康ぅぅぅ!太閤に告げ口すんぞてめぇぇぇ!」
「すまない遼!悪気は全く無かったんだ!」
「あったらぶっ殺してるっつーの!」
稽古場から聞こえる破壊音と兵の悲鳴。秀吉に勝るとも劣らぬ強さを持つとまで言われる、万夫不当の娘が家康と喧嘩をしているのである。
見た目こそ三成のように細身だが、女性としては長身でゴツい体から岩をも砕く拳が唸る。
「…何したんだか家康は。遼は女なのに。」
「やれ、来たか黒猫。面白かろう?遼の胸に徳川が触れたのよ。」
それは遼でも怒る。家康よりも年下の、男子ならば元服したばかりの遼。いくら見目や所作が男子のようであっても女子だ。
今まさに半兵衛直々に作法を仕込まれているし、三成にも秀吉から評価されている為敵視される。平民から一気に豊臣の家臣となったのだ。
日頃は悪戯好きな娘であり気さくで、名護も菓子や手料理をねだる事がある。
「…納得。官兵衛は?」
「遼に投げ飛ばされて瓦礫の中よ。ヒヒ、遼の不幸は楽しい、タノシイ。」
かなり怒っている。キレなければ官兵衛を投げ飛ばすなど出来ない。見ている内に、柱を引っこ抜いた遼が家康を吹き飛ばした。
「はー、はー、畜生まだ苛立つ…!」
「貴様ァァァ!私が何をしたァァァ!?」
第2回稽古場戦開始。おそらく柱を振り回した遼によって、三成も吹き飛ばされたのだろう。
「逃げねぇ三成が馬鹿なだけだろうが!!」
ごもっともな意見。遼がキレる所を見て、賢い兵は脱兎の如く稽古場から逃げ出し、秀吉と半兵衛へ通達に向かっている。
吉継は安全圏から高みの見物だ。油断大敵だが、数珠で飛んでくる何かは叩き落とせる。
「…遼は若いからまだ可愛いんだけど…。」
三成は遼よりも年を重ねている。全く違和感ない、次元の低い会話を交わしながら戦う二人を何としたものか。キレた遼は名護とて手に余る。
「三成君!遼君!これはどういう事だい!?」
慌てて駆け付けた半兵衛に対し、三成と遼は互いに指をさしあって
「半兵衛様!コイツが悪いのです!」
見事に唱和した。頭も胃も痛くなりそうだ。
「…名護、知っているかい?」
「吉継が言うには、家康が遼の胸に触れた事から遼が暴れ出して、柱を引っこ抜いた遼が振り回したのに三成と家康が吹き飛ばされたからこうなってるね。」
最早原型を留めない稽古場に、瓦礫からやっと抜け出して痛みからか事後処理か頭を抱える家康とうずくまる官兵衛。
「…家康君が始まりか。遼君が怒るのも無理もない。女子だからね。」
家康と秀吉を混ぜ、更に足技まで使う遼。三成も遼も血まみれだ。
「三成は本当にとばっちりを受けただけだし。」
いつもは家康と三成が稽古場を破壊するのを、名護と遼が止めるのだが…遼が一旦怒ると被害が笑い話になり得ない。
「とりあえず三成君も遼君も手当て。後で僕の部屋に来るように。」
「はっ。」
「うげっ…はい。」
暑さを嫌う遼。半兵衛の部屋、と言うことはきっちり着なければならない訳で。本気でお説教嫌いだ。
「フン。」
鼻で笑う三成に、第3回戦の火蓋が切って落とされそうになったが。端正な顔を血まみれにした二人の腕を名護が掴んだ。遼は確かに馬鹿力だが、名護を傷付けた事は無い。三成と違い、尻尾をまじまじと見て遊ぼうとしたのだ。
「遼、手当て自分で出来そう?」
「あー、うん。背中痛くねぇから見える範囲は。後でお茶飲もうぜ、菓子作ってあっから。」
ニッ、と笑う遼をまた睨む三成。女同士の茶にまで嫉妬しているのだ。…女だと認めていない節は多々あるのだが。
「夕餉までにお説教が終わったらね。」
「…祈ってて。」
情けない声の遼は、ひらひらと手を振りながら自室へ向かった。
「さ、三成も手当てするよ。遼は一撃が重いって穴熊も言ってたし。」
さり気なく繋がれた手を、吉継だけが呆れたように見ていた。
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