粗品 | ナノ
真田に勝つっ!


遊煉様へ。


関東大会にて、辛酸を舐めた真田。報告に行かなければと赴いた病院で、幸村と談笑するクラスメート。取り立てて目立たない、ごく普通のクラスメートとしか真田は認識していなかったのだ。

「嬉しいな、幸村君がこんなに笑ってくれるなんて思わなかった。」

「そうかな?でもお兄さんにはちょっと感謝したいかもね。そうじゃなかったら君の話を聞けなかっただろうから。」

難病と戦う幸村と、如何にも健康で苦しみを知りもしないクラスメートに、真田は怒りを覚えた。

「…幸村、試合の結果を言いに来た。」

「あ、それじゃ私は部外者だから。今度は学校で、また色んな話しようね。」

席を外したクラスメートを軽く一瞥した真田。しかし本人はにっこりと笑って手を振った。真田にも、幸村にも。また会おう、と言わんばかりに。
真田は重々しく、結果を伝えた。幸村は黙って、拳を握り締めていた。

「…真田と同じクラス、なんだよね。あの子は本当にいい子なんだ。真田も、一回話してみたらいい。まだ一階にいるよ。他の患者さん達に、笑ってあげられる優しい人だから。」

治らない病気でも、死の恐怖が間近でも、彼女は態度を変えない。
生きている限り楽しむ事が、今まで支えていた人を喜ばせるのだと屈託のない明るさ。不快に思えない、平凡さが羨ましく映るのだ。

「少し、いいか?」

「え?うん。猛くん、またゲームのお話しようね!お姉ちゃんもやってみたいから!」

「うん、またねお姉ちゃん!待ってるよ!」

にこやかに手を振る少年を見送り、クラスメートは手招きをして静かな場所へと招いた。

「…やっぱり、幸村君とおしゃべりしたのが気に入らなかったかな…?」

おどおどと、上目遣いで真田を見上げる。厳しい事で有名な真田は、やはり怖く映るのだ。

「いや…幸村と、何の話をしていたのかと。」

「幸村君と?真田君達に切原君が廊下を走って会いに来て怒られてたとか、学校の話だよ。」

それに、真田は僅かに動揺した。幸村と話す事は、いつも部活の事。他愛ない話をしている暇は、無かったのだ。

「…全国には行けるが、俺達は負けたんだ。」

「…テニス部、強いもんね。真田君が頑張ってるの、みんな知ってるよ。眉間のシワが深いって。チャレンジ出来るなら、終わりじゃないよ。」

クスクスと笑うクラスメートに、真田は珍しく笑っていた。あまりにも平凡な気休めなのに、その平凡さが助けになったのだ。
絶望的な状況から、未来を見据える力。


平凡だから、勝てる事。という事でポジティブに書いてみました。主人公は。

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