オールバックな木手君 | ナノ
毎朝の日課


「お嬢様、お目覚めのお時間です。」

しかし爆睡状態の霧栄。眉間に皺を寄せて軽く頭を叩こうとしたところ、寝返りを打ったと思えば霧栄から鋭い飛び蹴りが放たれ、木手はすんでのところで避けると回し蹴りを霧栄に放ったが見事にガードされたが壁に叩きつけられた霧栄。

「いっつー…えーちゃんレディファーストとか習ってないの?」

「起き抜けに飛び蹴りをする女性にしろとは習っていませんね。それと毎朝申し上げておりますがちゃん付けは止めて下さいと何度言えば覚えるんです?」

手がヒリヒリするーと言いつつ叩きつけられたダメージをほぼ無効化した受け身の取り方。全て木手が仕込んだものだ。

「かわいーじゃん。」

ニッと笑う霧栄にしかめっ面のまま木手はアイロンがかけられた制服を手渡し、

「10分で、終わらせて下さい。」

「無理。眉毛書かなきゃいけないしファンデ新作使いたいし髪の毛巻きたいし。つーか何の為に9時登校の学校なのに6時に起こすワケ?」

睨み合う双方。絶対に譲らないからこれでまた無駄に時間を使っているのだが、霧栄は若さの特権だ。
華の女子高生なのだから。ちなみに毎朝似たようなセリフで繰り返されている。

「…毎朝繰り返して飽きませんか?」

「譲らないえーちゃんが悪い。」

膠着状態が5分程続く。手を出した方が負けるから。

「髪の毛は私がします。お嬢様は早く、早く着替えて下さい。」

「さっさとそう言えばいいものを。」

主でなければフルボッコにしたい、毎朝木手が思う事だが霧栄は体の軽さを生かした攻撃を得意とする、沖縄武術向けの人間だ。
チラリと時計を見て木手は背を向け霧栄の着替えが終わるのを待つ。

「えーちゃん髪宜しく。」

鏡台の前に座り、早くもベースやコンシーラーを使っている霧栄。僅かな救いは香水を多量に使わない事だろうか。
丁寧に且つ迅速に木手はボサボサの髪を梳くと、コテを使って霧栄好みの巻き方をしていく。この作業に30分かかる。お互いに。

「本日の朝食はライ麦パンかカンパーニュかスコーンをお選び下さい。」

「パン。」

また買い食いする気か…と呆れつつ食堂へ案内し、1人で黙々と完璧なマナーで食べる霧栄。その間に木手はカバンに教科書などを入れていく。
そして車でリップを塗っている霧栄に淡々と告げる。

「本日は古典、数学、現代文、一般教養の授業で御座います」

「もう覚えたよ。えーちゃん。」

また睨み合うが、到着と共に木手は颯爽と車から降りてドアを開け、見送る朝。


今回の木手くん。

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