戦国婆娑羅 | ナノ
切る馬鹿切らぬ馬鹿
豊臣は、国が大きい為仕事も当然比例する。現代ならば官僚、戦国ならば家臣がそれぞれ仕事を行う。
「ご足労、傷み入ります秀吉様。」
「半兵衛の病は?」
「安定はしておりますが油断はなりません。」
その多忙を縫い、しばしば半兵衛を見舞う武将達の相手を茅乃は任されている。内務大臣ポジションだが、実権は無い。半兵衛の代行とも言えない。
と言うわけで茅乃は秀吉に負けず劣らず忙しい身分だ。
「こちらに。お茶をお持ち致します。」
「うむ。」
半兵衛に見出され、武力を知恵が大幅に補う娘。少女のような姿をした女。
軍師として、秀吉も視界の隅に入れる程度には気を払う。
梟雄、松永久秀が愛でた小鳥。毛利を彷彿とさせる細やかな策は半兵衛の気に入るところ、と口出ししない代わりに相手もあまりしない。
「早速だけど秀吉、茅乃君の処遇についての文は読んだかな?」
「アレは我に必要無い。」
「秀吉…茅乃君がどこかに行けば間違いなく兵が減らされる。それだけの知を野放しには出来ない。」
後ろ盾が無いからこそ、好きに動ける。だから邪魔をされては厄介だ。
半兵衛も茅乃も隠し事は山のようにあり、腹の探り合いは困難を極める。表向きは主と小姓、有り得ないが衆道の関わりがあると裏工作をした仲だ。
一筋縄では行かないとよく知っている。
「魔王の妹のように、誰かに嫁がせ軍師として裏で使う、それが半兵衛の最善策であったな。」
「うん。医者の見立てでは長くとも桜は見られない。茅乃君のような桜ではないけれど。別に契りを交わす必要は無い。茅乃君に肩書きを与え、豊臣に骨を埋めてもらうだけだ。」
気配に、2人共口をつぐんだ。茅乃の話をしていて本人が居れば面倒だからだ。忠実に、静かに茶を出して退室する茅乃は足音こそ優雅だが、心中穏やかではない。
仕事が急に増えて脳内フル稼働だ。
「絶対サバ読んでる最上。ピンハネも大概にしてよ派遣に何ヶ月かかると思ってんの経費削減の邪魔ばっかり!」
愚痴を呟きながらも、仕事に精を出す女軍師。外交も必要なら出来るのだから、惜しい人材だ。女にして、狐憑きでも。
「正室にする必要もまた無い。第一武家の娘でも無いからね。」
必要なら適当に養子にさせてから、正室に置くだけ置いて側室に世継ぎを産ませればいい。茅乃の実年齢を知る2人だから、好き勝手言えるのだが。
「それだけ、お前はあの娘を買っているのか。」
「異国の言葉を知り、東の海はまだ渡れないと言い切った茅乃君の慧眼は評価に値する。」
そして、半兵衛の遺言書に一行足される。
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