戦国婆娑羅 | ナノ

咲いて散ってまた咲いて


療養中と言う事で、僕は少しの女中と兵。そして茅乃君と共に静かな山の中で死を待つ。侍医によればもう長くはない。

「ここから豊臣の天下を見れるだろうか。」

「日の本を見るには些か視界が悪いかと。秀吉様より文が届いております。」

気配に振り向けば、松永君がその声を愛で僕が腕を鍛えた茅乃君。
到底、二十歳を過ぎた女子には見えない。松永君に影響されたのか、滅びの美しさを知る。

「有難う。日も暖かいし、たまには普通の茶を頼もうか。」

「はっ。」

病持ちの僕に、狐憑きの茅乃君。小姓として傍に置いているけれど…誰も好んで近付かない。それが有り難かった。
茅乃君が女子らしく振る舞える僅かな時間。永久の若さを持っているような、そんな錯覚を抱く茅乃君の歌を、独り占めする贅沢な一時。

「散るなら戦場で、と願ったのにな。」

「半兵衛様。確かにそれはもののふの本懐で御座います。ですが今言うべきでは無かったかと。」

お茶を持ってきた茅乃君の背後に、三成君。…確かに間が悪かった。僕が死ぬはずがない、秀吉もまた同じと堅く信じているから。
来客の予定は無い筈だったのだけど。

「三成君、何かあったのかな?」

「半兵衛様が、秀吉様へ遺書を送られたと聞き。いてもたってもいられなくなりまして。」

取るものもとりあえず、詳しい話を聞きに来たのか。三成君らしいと言えばそうなのだけど、遣いくらい出すようにしてもらおう。

「長くはないと聞いてね。茅乃君にも覚悟はして貰っている。」

「御命令は手筈が整っております。」

春ならば桜。夏ならば朝顔を植える。秋は銀木犀。冬は山茶花。茅乃君の見立ては悪くない。

「半兵衛様、何故…。」

「死にたくないと思うのは当たり前だ。増してや秀吉の天下は目前。茅乃君にも諭されたよ。」

女子らしく、花に準えて。散らない花は不気味でしかなく、散るから愛でる。軍師として咲いた僕は、軍師として散れる事を幸運と思える。
…茅乃君はまだ知らないけど、彼女はおそらく小姓として散らねばならないと思っている。女子である事を隠したまま。

「半兵衛様、小姓の戯れ言を聞く必要は無いかと思われますが。」

「普通の小姓ならね。茅乃君は松永君の考えをよく知る、軍師にしたい者だ。些か矢面に立たせるには時期尚早、とも思う。」

本能寺で拾った、と言う明智光秀の鎌。自在に扱えると言っても隙が多い。加えて、茅乃君の策は良策でも軍師が進軍する斬新な策もある。それが気がかりだ。


賑やかな昼下がり、季節はずれの春告げ鳥は高らかに歌う。
叶うならもう少し早く会いたかった。

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