戦国婆娑羅 | ナノ

桐の葉心


数多の仕事をこなし、評判の下がる一方の石田軍を何とか財政面を支える茅乃。執務を必死に行う姿を家臣達から三成同様、やたらと気にかけられている。
戦帰りの大谷にすら、茅乃の憔悴具合が耳に届けられた。食事すら碌に取らず執務に追われ、蝋燭の消費量も増えたと。

「茅乃が、三成のように食わず眠らず執務をとな。」

「はい。最早茅乃様の傍使えのみならず、兵にまで知れ渡っている事と。」

守りを任されていた武将が、人の口に戸は立てられない。三成や大谷に噂の形で伝えられる事を危惧して報告した。
表舞台を避ける大谷から三成に、と保身は隠しようがない。

「あい分かった。」

「失礼致す。」

大谷は豊臣全盛期から避けられ続けていたが、今となっては石田の軍師。
茅乃は三成の正室にして、戦場を走り松永と半兵衛から学んだ内政トップ。立場上、茅乃を窘められる者は三成のみだ。
その三成が心底信頼する大谷が茅乃を軍師の立場からなら、内々に茅乃のハードワークを止められる。

「やれやれ…似た者夫婦とは難儀よの。」

未だ掴めない、茅乃の狙い。三成が止まらないのは解るが、またもや狐憑きになった茅乃は我に返るなり自室で動かないと宣言し、筆を手放さないままだ。
兵士に手に入れたばかりのお市を茅乃の部屋へ向かわせ、刑部も重い腰を上げた。

「茅乃、良い不幸を見せてやろ。」

「…私は充分今現在頭痛で不幸ですよ、大谷様。」

大谷と、目隠しをされたままのお市が茅乃の部屋に入った。兵士は、部屋の傍に控えている。
ゆっくりと2人を見て、茅乃は思い切り固まった。

「…誰です?この女性は…?」

「名は知られておる。魔王織田信長が妹、第五天。良い不幸よ。」

茅乃が叩き込まれた知識から、恐らく生き長らえたお市だろうとは解る。
三成から聞いた人形とはロリコンや人形趣味ではなく、人間を意のままに操る事だと茅乃も理解した。ただ、頭の回転と、現状認識が追いつかないのである。

「左様で御座いますか。」

「茅乃よ、第五天の目を少しばかり見よ。」

「あなた、だぁれ…?不思議な土の香り…。」

茅乃が優しい手つきで目隠しを解き、お市の目を言われた通りに見た瞬間。茅乃は崩れ落ち物音を立てた。狐憑きと、現と夢を行き来する者は近しい。
お市を再び目隠しさせ、大谷は茅乃を強制的に眠らせた。傍使えの女に後は任せたが、止まらない茅乃の涙。
後にお市を脅しに、度々睡眠不足とストレス過多で倒れる前に休ませるようになった。

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