戦国婆娑羅 | ナノ

毒にも薬にも


奥向きの主にして、苛烈な三成に代わり民の管理と検計から城代家老(財務省から外務省まで)と、成せる事全てを受け持つ娘。
正しく竹中の後継と、男子ならば称えられたであろう腕利き。

「茅乃。もしや金ヶ崎に向かうと三成から聞かなんだか。」

「三成様よりは聞いておりませぬ。ですが大谷様の周囲より聞き及びまして、明日には試算が出来上がりましょう。」

昨日の今日で目録を作り上げるとな。しかし、われの世話役は口が軽くて仕方ない。相手が茅乃だから、であろうが。
鎌の一振りで大の男を10は仕留めると言う流言故にな。両の手にさらしを巻き、痛むであろうにせっせと勤しむ。
奥向きに閉じ込められぬ、その才を見抜かれた不幸か。

「刑部、何故こんな場所に居る。」

「金ヶ崎の話を茅乃にしたまでよ。後はぬしに任せるぞ。ぬしは背後に備え金ヶ崎には行かぬ。」

「はい。」

「…どういう事だ刑部。」

奥方の執務室をこんな場所呼ばわりをした後に、茅乃が来ぬとなれば怒りを隠さぬ。
前例無き事は太閤も竹中もしたが、その後にある茅乃は兵の士気を容易く上げる。それを使うだけと三成は納得すまい。

「われも三成も向かえば、城に残るは茅乃以外に適任は居るまい。竹中殿の後継ぞ。」

「守りは、お任せ下さいませ。大谷様、出来上がりました。」

「貸せ。」

4日はかかる、と見積もったが存外早い。一通り目を通し、三成はわれに目録を渡しやった。
常々思うが、三成に世継ぎは望めまい。

「…長曾我部が、雑賀に向かったと。」

「はい。それ故に交易を少しばかり遅らせる旨が、つい先程参りました。」

「名も無き蝙蝠と傭兵が組んで何をする。家康に付くならば斬るだけだ。」

網に掛かった魚が、賢しらな雑賀に入れ知恵されなければ良いがな。三成と茅乃にも、明かす訳には行かぬ事。
茅乃もまた、聡い故に手を打ちかねぬ。

「ぬしはそれで良い。茅乃、金ヶ崎の始末はわれに任せよ。」

「はい。兵糧はいつでも可能に御座います。」

「刑部、さっさと済ませるぞ。家康の首を捧げるまで止まるものか。茅乃、秀吉様の城を汚させるな。」

「はい。三成様。」

足早に立ち去るが…何をしに来たのだ、三成よ。苛立ちが手に取るように解るぞ。
…茅乃の冴えぬ顔色か。ぬしとそう変わらぬと思うがな。

「あい解った。忙しないが直ぐに終わろ。」

「…三成様が斬って仕舞いとなりますか。」

われにすら、茅乃の真意は計れぬ。何故三成にここまで尽くすのか。何かに急いているようにしか見えぬ。病は狐以外にあるのか。

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