戦国婆娑羅 | ナノ

姿も香りも見えず


幸い、アキレスや神経に支障の無い傷とは言え、結構な深手であった為。茅乃は事実上執務に専念させられていた。
街中へ向かい、民の観察や噂話を仕入れた商人達と交渉をするなど論外だ。

「兵の強化は三成様が、軍事は大谷様と。…確かに数はある。毛利と大谷の長話と聞いてはいるけど。」

何故同じタイミングで黒田が挙兵の動きを見せ、四国が壊滅の憂き目に遭い。徳川が四国を攻めた話がいきなり出て来るのか。黒田が四国を攻めたなら辻褄が合う。
だが自分に調べる術が無いのだ。袂を分けた黒田が素直に白状する筈も無いし、毛嫌いされている毛利に探りを入れる事も出来ない。

「女だから痛みは男より耐えられるのに…。」

何故ここまで、茅乃の動きを封じたがるのか。
大谷は無論、三成を庇う為だ。何かやろうとしている、と気付いている茅乃は、はっきり言って悪企みの邪魔。先手を打たれる事は嫌いだ。三成の為に、渋々黙るとしても。

「茅乃様、お茶をお持ち致しました。」

「どうぞ入って。」

書状をしたためていた為、筆を置いて女中を招き入れる茅乃の部屋は、医師と三成以外男は入らない。寧ろ入れない。
油を売っている暇があるなら鍛えろ、と茅乃からやんわりした口調で追い出されるし、肩書きは三成を慕う妻なのだ。

「まぁ…藤の着物が白い肌によく映えておいでで。三成様から?」

「半兵衛様が、私にと内密に残された物。こんな短い髪に簪も要らぬよ。雑賀からの珊瑚細工があるが、欲しいかな?」

袴を好んで着る茅乃は、そう着物にこだわりは無い。そもそも洋服に慣れ親しんだ平成育ち、動きにくい着物は柄を綺麗と言っても着ない。
松永に着付けや作法を叩き込まれてはいるが、祝言も無理やり髪を上げてやり過ごした。

「そんな、滅相も御座いません。」

悪戯っぽく尋ねた茅乃に、勢い良く首を振り女中は退室した。我ながら意地が悪い、と笑い茶器を眺める。茅乃に敵は少ない。
三成の妻である茅乃には、列強が警戒するが。

「…長曾我部は徳川を恨むだろうな。遊び呆け国を空ける国主と言うのも些か間の抜けた話だけど…良薬口に苦し、と思えるならそもそも空けないって。」

あっちこっち歩き回ってポジティブシンキングすぎる前田慶次も、秀吉の死をきっかけにか軍神の下にいると聞いた。前田も上杉も、現在は中立を保つ。
茅乃は茶が冷める事すら忘れ、各国の動きが聞けない事に歯噛みする。足が何とかなれば、忍に頼らず民の噂話を聞けるからだ。忍は茅乃の部下と名乗るから、素直に聞けるか怪しい。
内政にのみ、全権を握るが外交や軍事は蚊帳の外。

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