戦国婆娑羅 | ナノ

蓼食う虫も


茅乃に後は任せよ、と言うは易いが。三成を宥めすかし、血の気が失せた茅乃を手当てに運ばせ、兵を退き大阪城へと戻るは難し。
目覚めれば茅乃が動くが、面倒な事になった。三成が食わぬ。

「三成よ、食わねば徳川を討てぬ。茅乃もじき起きて働く、ぬしが倒れては話にならぬ。」

完全に三成は徳川の首にしか興味を持たなくなった。豊臣の天下が崩れ落ち、太閤の圧倒的な力に従っていた諸国が徳川に。
三成か徳川か、と聞かれて苛烈な三成を選ぶ者は少ないな。

「要らん。茅乃がすぐ動けるのか。」

「多少はな。いきなり戦にはならぬ。ゆえに食って貰わねばな。」

茅乃は豊臣の建て直しに、前線での戦いなどやってもらう事がある。
不幸を呼び寄せる不幸を背負う女、取り込んである分使い易い。聡いが、茅乃は行く宛ても何も無い。

「どうした刑部。」

「ナニ、茅乃を案じたまでよ。食ったか、われは安心したぞ。」

かなりの兵を徳川は有しておる。三成の望みとわれに残された時間を考えれば、そう長くはない。
幾つか悪企みをせねばな。手段は選べぬ。

「三成様、茅乃様が起きられました。今向かっております。」

「それがどうした。」

「三成、茅乃は足を射られ早くは歩けぬ。歩くなと言われなんだか。」

さぞ痛みに堪えて来ているのであろうな、と呟けば三成が飛び出した。
…われには、ぬしらが想い合うようにしか見えぬ。互いに見せぬだけか。

「三成様、歩けますから下ろして下さい。」

「足を引きずって歩けるなどとほざくな!!」

やって来たと思えば、茅乃は三成に犬の子を抱えるように連れられておった。これが、凶王の妻とは。

「目立った傷は足だけか?茅乃。」

「…後は肋が痛むだけで。本田忠勝は手を抜いたと思えます。」

三成に思い切り睨まれ、われには他の傷を聞かれ。目を逸らして呟いた茅乃は、三成からわれの輿に乗せられた。

「み、三成様?」

「死ぬ事は許さない。だが他は好きにしろ。刑部もだ。」

「あい解った。茅乃、暫しわれの話を聞け。」

此度は真を教えてやろ。ぬしは三成の妻、凶王三成が唯一傍に寄れる女。そして豊臣の軍師が見込んだ手腕を生かして貰わねば。
われの望みを果たす為に少々、使われてくれ。

「真っ先に徳川が狙うのは雑賀。しかし雑賀は確か四国と奥州などとも繋がりがある傭兵…交易は止めずに維持が賢明かと。」

「ぬしはひとまず、三成の事と軍の建て直しを優先してもらわねばな。」

耳聡い、行商人に金を出して情報を集める腕は忌まわしくも便利よ。

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