戦国婆娑羅 | ナノ

帰花の桜


半兵衛様が小姓として連れてきた少年は、女のような名に、細かった。

「松永久秀が次男、茅乃と申します。」

まだ元服もしていないであろう声の高さ。だが、その目は力強く私を見据えてのけた。誰もが…刑部と家康以外まともに見ようともしない私を。

「茅乃君。三成君は居合いが得意だ。君の鎌は振りが甘いから指南してもらうといい。僕も出来る限り君を育てよう。」

「身に余る光栄に御座います。」

半兵衛様に茶を、と退室した茅乃…だったか。を見送り、半兵衛様は穏やかに微笑まれた。

「不思議かな?彼は随分と頭の良い子だ。ただ、異名が帰花の桜若子と松永君は笑っていたけどね。」

帰花の桜若子。即ち、狂い咲きの人を狂わせる桜のような若子。あれを養子として迎え入れた事を半兵衛様が知り、深謀遠慮を評価して小姓に。
半兵衛様は、危険だと思われぬのか。

「僭越ながら、あまりに危険かと。」

「問題ないよ。茅乃君は弱い者を更に弱らせる事が得意だが、強い者には通用しない。更に言うなら、松永君は彼の声を愛でて気まぐれに指南してみたら良い子だったと。それしか松永君には興味の無い子だ。」

耳朶に響く力強い秀吉様とも違う、だが聞こえやすい高い声。半兵衛様は茅乃の事をよく褒めている。
内政を充実させ、押しも押されぬ国として世界を目指す。魔王亡き今は、あらゆる国が乱世に備えると践んだ慧眼は幼い目としては及第点以上だとも。

「半兵衛様、三成様。お茶をお持ち致しました。」

「入っておいで。」

礼儀も悪くない。だが何故頼んでもいない茶を?

「貴様。私は頼んだ覚えはない。」

「申し訳御座いません。父より、茶は頼まれずとも目上には必ずと聞かされておりました。」

奴は、半兵衛様に茶を出した後に声を震わせて頭を下げた。…白く細い首。中途半端な長さの髪が隠そうにも隠しきれていない。

「茅乃君、悪い事ではないし三成君が例外と覚えておけばいい。三成君も茶人の松永君から教わった茅乃君の茶を今回だけでも飲んであげてくれ。」

「はっ。」

香りも上々、味もおそらく良いのだろう。半兵衛様は満足そうに飲まれている。私は点てる側だったが、飲む事は気にしない。飲めれば水で構わん。

「さて。茅乃君にはまだ案を出してもらうから執務室で待っていてくれ。」

「…申し訳御座いません、どちらのお部屋でしょうか?」

「最初に案内した部屋だ。また城を案内させるから気に病まないように。」

平伏し、去った茅乃を眺める半兵衛様。その目は、道具よりも子を見る親を思わせた。

半兵衛様がお隠れあそばした後。茅乃が実は二十歳を過ぎた嫁ぎ遅れの女子で、遺言に従い私の室となったが軍師として豊臣に尽くす事となる。


私がトリップしている事は松永さんと私だけの秘密。狐憑きを帰花の桜と言い換えた松永さんのポエマーぶりにはビビった。目指せ仮面夫婦!…旦那の協力を求む。


堪えきれずに書いてしまったトリップネタ。ストレスに激弱な主人公はお市化する事があるので狐憑き。変な手は出てきません。

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