戦国婆娑羅 | ナノ
蕾には戻れない
幸い、蓄えはある。家康のクーデターって言っていいのかしら、これ。兵には緊急召集かけて、一軍を率いて私は本田忠勝の首を取ると、捨て石になる道を選んだ。兵も、覚悟をしているのだ。
…戦国最強を相手に生き残れる確率は低い。そして本田忠勝は単独、軍を率いて動かない。
「本田忠勝の首を挙げた者は、後世に語り継がれる栄誉がある!豊臣の兵は無様な死を選ぶな!」
「うぉぉおお!!」
大地を揺るがす雄叫び。もう、本田忠勝は目前。馬を置いて、鎌を引きずりながら死地へ向かう。
…死が、私を現代に帰してくれると祈って。
「展開せよ!必ずや本田の足止めを!」
「茅乃様!徳川と秀吉様が一騎打ちを!」
「秀吉様からは!?」
内心、舌打ちしたい。秀吉は確かに前線に立つ事が好きで、こっちの軍略もある程度余裕がいる。
一騎打ちとなれば、三成が乱入しかねない。
「援軍は寄越すな、との事!茅乃様は!?」
「大谷様に茅乃は変わらず本田と伝えよ!三成様も殲滅と!」
「はっ!」
本田忠勝に私達だけ、と家康の気を逸らす材料を与えたが…秀吉が家康を討てばそれでいい。
もう、私は鬼にも夜叉にもなる!
「行け!矢を放て!」
指揮官が小娘に見えたか、切りかかる兵を切りながらひたすら本田忠勝の足止めに集中する。
こちらはもう乱戦だ、秀吉に勝利が掛かっている。本田を討てたら、奇跡だ。
「ガハッ!」
薙ぎ飛ばされ、背中を地面に打った。鎖帷子を着ていても、走れるか。額からも生暖かい血が。
「怯むな、行け!本田の鎧は継ぎ目を狙え!」
ジャンプして、肩を狙ったがガードされる。
意地と根性は、松永さんお墨付きなのよ!絶対に、生きて現代に帰るの!私の生まれた場所に!
「地獄だろうが黄泉だろうが!お前も道連れにしてやるわぁぁ!!」
もう、私は指示を出す事を止めた。どちらも生きる為に、自分の正義に従っているのだから。白も黒も無いのが、戦場!
「なっ!?」
本田が、飛んだ先。…秀吉に何かあった!?どちらが!?鎌を引きずって、なけなしの力を振り絞って走った。
酸欠で音が無くなる。何とか登った先に。倒れた秀吉を抱え叫ぶ三成と、大谷がいた。
…秀吉が、負けた。重たい鎌が、力を無くした手から落ちる。
「茅乃、後は任せよ。…見やれ、ぬしの通った後に赤い筋が。」
ぼんやりしたまま、振り向くと。足を射られたか、本当に赤い筋。貧血か。
「秀吉、さま…。」
いつになったら、私は帰られるの?三成、あなたはどうするの?あなたが武士でなくなったら、私はどうやって生きていけば?
薄れる意識の中、疑問ばかりが浮かんで消えた。
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