戦国婆娑羅 | ナノ
散らす覚悟と
私の妻として、秀吉様の御為にただひたすら生きる半兵衛様の補佐。私を通じ、秀吉様からの命を全うせんとする女。
「三成様、秀吉様へお伝え願いたき事が御座います。甲斐に向けた徳川の戻りが遅く、不穏な動き有り。万が一を御一考願います、と。」
「…家康が、裏切ると?」
「事実、私の手の者が数名消息を断っております。小姓をしていた折に、配下として秀吉様よりお預かりした忠義に厚き者が。」
茅乃を睨んだが、全く怯む事無く事実を言う。秀吉様に、私に生涯懸けて尽くすと言い切った茅乃が。
家康は、自分の為に生きると私を理解しない奴だ。…秀吉様に弓引くと言うなら、話は別だ。
つい先日、官兵衛を穴倉に向かわせたと言うのに、何故秀吉様の邪魔をする。
「伝える。茅乃は備えているか。」
「はい。大谷様にもお伝えしております。」
刑部なら、手を打つ。
火急の用と、茅乃が言うだけある。私も急がなければ。秀吉様へ、伝えなければ。
「秀吉様、茅乃より火急の言伝が。」
「三成か。入れ。」
鍛錬を終え、着流しに執務を行う私の主。神々しい姿に、素晴らしいの一語に尽きるお力。
私は、茅乃の言伝を正確に伝えた。疑う必要がどこにある?
「…家康が、か。茅乃はどうしている。」
「遠江から大阪への進軍速度及び、我々が進軍したとして当たる場所の地理を調べさせております。刑部も動きがあるかと。」
「伝えよ、茅乃に一軍を任せ大谷と共に布陣を選ばせると。」
「御意。」
半兵衛様が最も期待し、秀吉様からの信も厚い茅乃。必要ならば、自ら捨て石となる。
室となり、手間ばかりかかる縁談を片端から断る口実にした。
「秀吉様!徳川より翻意有りとの文が!」
「皆を集めろ、家康を迎え討つ!!」
嗚呼、なんと気高きお姿か。幾千幾万の兵を率い、戦う秀吉様。
私の命は秀吉様の為にあり、秀吉様の為に生きる事が、石田三成の勤め。慌ただしく、兵が集まる中。
茅乃は末席で口を開かずただ耳を傾ける。私に与えられた任が、茅乃の勤めだ。
「急がねばならぬな、三成の奥方よ。」
「はい。」
軍議を終え、私と刑部が話している所で茶を点てる茅乃は静かに頷いた。どんな布陣を選ぶのか。
一つでも多く、家康の首をはねる事を考えて茶の味など眼中に無かった。世界に向ける水軍完成まで、残りわずかだった。
「秀吉様の名の下に、家康を討つ。」
「左様、ぬしはそれでよい。本田はどうする。」
「私が足止めを。例え屍となれど、秀吉様のお手を煩わせる事は阻みます。」
それが、この女の勤め。半兵衛様には遠く及ばないなりに、選んだ道。
少しだけ、胸が痛んだ気がした。
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