戦国婆娑羅 | ナノ

匂ひ起こせよ


秀吉殿の名代、として三成の名で書かれた書状を読んで、苦笑せざるを得なかった。
茅乃は、半兵衛殿以上に用心深い。ワシの領地から産出される石高、豊臣から出せる石高を総合して兵糧を送る必要は無い、と冷たい返事だ。

「参ったなぁ、あの茅乃と知らなかったらワシは勝算が無い。」

「家康様!?」

甲斐から大阪に戻る間。一度遠江に寄って、秀吉殿に宣戦布告を行う。
官兵衛は穴倉に投げ込まれるらしいから、怖いのは刑部と茅乃だ。三成も目が離せない。勿論、全てを束ねている秀吉殿もだ。

「落ち着け、あるから言ったんだ。…あっさり差し出す愚鈍なら、半兵衛殿の補佐はしてないか。」

兵糧も無限ではないから、毒を盛って兵を削るとか…ワシが考える事なんてお見通しだな。
刑部か、茅乃かどちらが布陣を考えるか。茅乃なら忠勝を警戒する、刑部ならまっしぐらにワシを狙う。ここまで違うと、布陣も一苦労だ。

「半兵衛殿の補佐?それは自害した同じ名の小姓では?」

「茅乃は子供のように振る舞え、と義父の松永殿に言いつけられていた。ワシはここまでしか知らん。」

茅乃を調べると、松永殿からしか判らん。どこの出身で、実の親兄弟、狐憑きとしてどう生かされたか。全く判らん。
年も、正直ワシと変わらんと思った。謎が多いから、厄介だ。

「…乱世の梟雄、松永久秀の養子が生きて、女子であると。」

「茅乃は怖いぞ、全く読めない。刑部よりも、誰よりも秘密が多い。」

多すぎて、どこから調べるか悩む。官兵衛も小姓をしていた茅乃には、会話を弾ませる事に難儀していた。豊臣の事だけをどこまでも効率を求め、より良い兵を集めているだけだ。そして世界に日の本の強さを示して、こじ開ける秀吉殿の補佐をしている。
久しく、茅乃の耳慣れない歌を聞いていないが…もう、聞く事は無い。茅乃は三成の奥方、そして武人だ。

「三成殿を慕う、帰花。小姓の時に出た戦場にて五十の首級を上げ、指示も明確と。」

「あぁ…。」

小耳に挟んだ、凄まじい狂気じみた働き。戦場のみで見る、噴き出すような激情をどうして抑えるのか。
抑制しなければ、敵味方問わない信長公のようになるのだろうか。

「秀吉殿の右腕に仕え、左腕の妻となったとあれば…茅乃殿は我らに刃を躊躇い無く向けましょう。」

豊臣の枝に咲き、囀るだけの女子であればどれだけ良かったか。初陣で、真っ青になりながら気丈に指示を出す半兵衛殿を見ていたのだから。

「そうだ。茅乃は豊臣に逆らう者を葬る策を持つ、恐ろしい女子だ。」


三成にだけ、冷たさを感じさせない声で話す。三成にだけ、注がれる絆。
ワシはどう思われても、世界に戦は広げたくない。

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