戦国婆娑羅 | ナノ

枯れ尾花


太閤に呼ばれ、三成と共に向かった先には。少女の如き風貌と歌声を持つ、小姓が控えていた。さぞや勇ましき将になり、引く手あまたの色男となる幸福がわれは疎ましい。
その涼しい顔が不幸により歪む日を、われは望む。

「来たか。茅乃。」

「はい、秀吉様。」

竹中の遺言書は、太閤以外知らぬ。われすらも調べられなんだ。それを開き太閤は驚くに値する事を、読み上げた。

「茅乃は女子だ。我と半兵衛、そして茅乃以外は知らせておらん。半兵衛が他言無用にした理由、来たばかりの茅乃は兵にならぬ程力無き女だが、その智は半兵衛が認めるに値するものだったからだ。」

竹中亡き後、日常も酷使していたから執務のみをさせていた。竹中の文と、茅乃の文は筆跡が明らかに違う事が証明する。
流石のわれも開いた口が塞がらぬ。ここまでして、竹中は後継者を探し育てておったのか。内政が少しずつ変化し、交易が活発化していた事は茅乃が一枚噛んでおった、となる。
暗とわれは軍師として動かしておったか。

「秀吉様!な、ならば茅乃は半兵衛様の傍女であったと…?」

「否。茅乃と半兵衛は主従を貫いていた。そうであろう?茅乃。」

「秀吉様の仰せの通りで御座います。二十歳を過ぎた女子、ましてや狐憑きを相手にする程、半兵衛様は物好きではないとも聞いております。」

竹中は病、死期を悟ったが故に室にせなんだか。
狐憑きとなった茅乃は、意味の解らぬ事を言うが返事をする。あれは真の不幸であったか。
男子と偽る事を義父に強要され、そのまま朽ちると思えば生き延び。女子だと明かされ、今やわれか三成の室にされかけておる。
二十歳を過ぎているから、世継ぎは側室を娶ればいい。要らなければ茅乃を重んじるとして、断る事も許すとまで竹中は決めておった。
茅乃の意見も、幾許かあるようだが。

「飾りの室を置き、縁談を断らせる…。」

「此度に関しては、我も半兵衛も前々より話していた事だ。茅乃に異存無し、と書いてあるが。」

「有りませぬ。義父も最早この世の者ではなく。私には行く当ても知人も無いのですから。」

そのまま無縁仏となる覚悟もしておるか。だが、その手腕は竹中が手放そうとしなかったものよ。狐憑きであっても、手放しがたい知を有しておる。

「三成よ。ぬしが茅乃を娶れば縁談をいちいち断る手間が省けよう。」

「何故だ刑部。私は室など要らん。秀吉様の為にだけ私の力は振るわれるのだから。」

太閤が三成とわれにだけ、明かしたのだ。偽りを嫌う三成に。既に決めておったのよ、太閤は。
偽りの夫婦になり、小姓茅乃は自害したとなった。これからが楽しみよ。

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