戦国婆娑羅 | ナノ

己を嘲るか否か


半兵衛が死んだ。その話を聞いて、俺はいてもたってもいられなくなった。
半兵衛が療養していた屋敷に行けば、何か聞けるかも知れない。秀吉の気を変えられるかも知れない。
そうして向かった屋敷に、淡い紫の袴に黒い上掛けを羽織る子がいた。
その手には、紫陽花。

「何用でお越しか。前田の風来坊…いや、前田慶次殿。」

何の感情も見えない声と目で、俺を見据えた。…下働きじゃない。幼すぎる。

「アンタは…?」

「申し遅れた、竹中半兵衛が小姓、松永久秀が次男茅乃と申す。」

花を抱きながら、茅乃と名乗る子供は礼をした。女の子の名前に聞こえるんだけどな。
そんで、思い出した。帰花の桜若子、その異国の歌は鶯さながらに美しく半兵衛のお気に入りだった事。

「茅乃、か。半兵衛に供えるのか?」

「如何にも。所詮は私個人の感傷にして自己満足だが生者の特権なれば。」

いちいち松永を思い出させる言い方だな、次男って養子だったのに似るか?ここまで。

「して、遥々このような土地にまで来て半兵衛様を悼まれるので?」

半兵衛の墓はここじゃないと、茅乃は事も無げに言ってのけた。冷たく、嫌みったらしい言い回しは腹が立つけど教えてくれた。
…寧ろ安心した。まだ、俺は半兵衛の前でどんな顔をしたらいいのか解らないから。秀吉の事もある。

「そうだなぁ、なら半兵衛の話を聞かせてくれないか?」

「遣いも寄越さず、突然押し掛けて話せとは。こちらの都合も考えぬその浅慮は驚嘆に値しますな。」

うっすら笑う茅乃は、何故帰花と呼ばれるのか解らない。惑わすどころか現実を見るように促してる。
松永の子なだけあるな。まだ育ちきってない子供のクセに、半兵衛の傍ら戦場を駆けた小姓。

「俺は昔の半兵衛なら知ってる。でも最近はちっとも解らないからさ。」

「…はぁ。さして時間は割けませぬがそれで良ければ茶の一杯くらい出しましょう。前田殿を案内して差し上げよ。私もこれが終われば直ぐに向かう。」

あ、紫陽花を手向けるんだった。夢吉が気にしてる。細い体に、背丈もまだまだ子供。秀吉は、茅乃みたいな子まで使うのか。
半兵衛の関節剣が置かれていたのだろう部屋は、びっくりするくらい殺風景だ。

「お待たせ致した。」

「いーよ、気にしてないから。」

「貴殿はかつて秀吉様方と争った、と聞き及んでおりますが。」

どういう風の吹き回しだ、と言いたいんだろ。友達なんだよ、秀吉も半兵衛も。変わってしまったけど。
茅乃と、暫く話して俺は帰った。
考えすぎる子じゃないかな?あの子。

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