テニバサ | ナノ


生きろ、そなたは


「…何、飢饉の影響で口減らし?世知辛い世の中だねぇ…もうすぐ夏だし稼ぎ時だから、助けてあげようかな。」

すっかり山賊っぽくなってしまった私。
お風呂?何それ美味しいの?おにぎり?麦だね炊くの大変だよ?な現代人辞めました。
日焼け肌荒れ吹き出物に気を使ってる場合じゃない!何とか死なない程度に食いつなぐ日々から脱却して微妙に農民気味。
毎回いいもん拾えないのよこの業界。服装も男の子サイズ。女らしさは多分戦場に捨てました。

「…ここ、は。」

「まだ喋っちゃダメ。水は飲める?」

目元の涼しい、将来イケメンに育つだろう行き倒れの美少年に、竹を切って作った水筒を口元に寄せた。少しずつ、でも一滴残らず飲み干した。
…山姥が住む、と言われる私の現住所に迷い込んだくらいだ、かなり飢えてる。

「…まだ飲む?」

「…腹が、減った。」

「初夏だからいいけどね、真冬ならあげないわよ?感謝なさい。」

私の非常食、干し肉と山菜の麦飯。この間あった武田と上杉の戦で、結構潤ってるの。
私は現在今で言う福島に居るから、戦の話は農民のお姉さんやらに聞ける。時は戦国世は乱世。何で織田信長が伊達政宗と一緒に生きてるのとか色々ツッコミたくなる世界だ。
関わらないからツッコミ入れないけど。

「ありがとう…。お前は、この山の山姥か?」

「残念ながら山姥ではないわよ。見た事も無いしこの辺りは熊も滅多に見かけないくらい。君の名前は?私は蛍。」

相模原蛍、がフルネームだけど時代的に名字は偉い人専用だ。武士、なんて七人の侍以来…いや大河でも聞いたね。

「若。…食われちまえ、って捨てられた。」

「若、ね。そこまで話せるなら生きてけるよ。お姉さんも自分が生きるので忙しいから、頑張って。」

非常食全部食べきったんだし、動けるでしょ。私は一旦ねぐらに帰ろう。罠に鳥がかかってる事を祈るしかない。
蓄えはあるし、美少年一人助けて偽善者やるくらいなら出来る。短刀は腰に下げて、草鞋で山を探索しては食べられる草を採って生きてるし。

「…一雨来るな。」

野生化してもいます。アナウンサーいないから。1ヶ月以上サバイバルやってるからかな。

「蛍、俺は役に立てる。ついて行くから。」

「っ…勝手にしたらいいわ。ご飯は自分で何とかしなさいよ!」

いたいけな十代の少年を見捨てられる程、私は鬼になれない。
可愛いんだよ!解る!?独り言呟きながら山歩きする寂しさ!男の子扱いで二十歳すぎた干物女と言えない村での取引!
こうして、若と私(ダジャレじゃないから)は一緒に山賊紛いをやるようになった。
…うっかり計算とか小学校レベルの読み書きとか教えて後悔するのは、冬になってからだった。

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