テニバサ | ナノ
母のように姉のように
柔らかくて、暖かい蛍姉ちゃんについて行くようになって何日過ぎただろう。短刀を腰に下げて、髪の毛もバサバサ。
本気で山姥だと思った。
「若、国光。交代だよ。」
「あぁ。」
驚くぐらい、無防備に寝る山姥は居ないと考えたが。一体どこの落とし胤かと言いたくなるぐらい、何も知らないクセによく解らない事は知っていた。
2人きりの時、柔らかい手を握った事も知らないだろう。優しくて、綺麗な人。
「…蛍姉ちゃんって、何歳だ?」
「俺よりは生きている、と言っていたが。変わった名前だとは思う。」
俺の一つ年上、国光。蛍姉ちゃんより年上に見えるのは俺だけじゃ無さそうだ。赤也と雅治と咲乃と杏は年齢が解らないらしい。よくある話だが、蛍姉ちゃんは目を丸くしていた。
よっぽど大事にされたんだろう、でも捨てられたんじゃないだろうか。
「お人好し、だな。」
「そうだな。見ず知らずの俺達を助けるんだからかなり。」
その優しさに、どれほど助けられたか。返しきれない恩がある、と蛍姉ちゃんはよく言うが俺の方が返しきれない。
いつか、こんな盗人を辞めて農民でもやれたら。蛍姉ちゃんを嫁に欲しいと言えるだろうか。
「でもお人好しな蛍姉ちゃんがいたから、生きてんだよな。」
隠してるつもりなんだろうけど、蛍姉ちゃんは山で見つけた人を、律儀に葬ってる。俺達に見慣れるなと言って見せたがらない。
ボロボロの鍬で、下手くそだから手が肉刺だらけになっても止めない。
「…救われている。こんなに小さいのに、出ようとした事に怒りもしない。」
「食い扶持は減った方が楽だ。」
選んだ相手が悪かった。俺も赤也も、蛍姉ちゃんとずっと居たい。
雅治と景吾は正直、まだ解らない。特に雅治は何かある。杏か咲乃を無理にでも連れ出せば良かったのに。
「若は出るつもりが無いのか。」
「無い。出る時は蛍姉ちゃんも一緒だ。」
「蛍姉さんはどう考えているだろうな。」
正直、国光の問いは答えられない。何がしたいのか、なんて言う前に生き残りたいと考えてしまう。最悪、蛍姉ちゃんだけでも生きて欲しい。
だから、盗人に行く時蛍姉ちゃんは男みたいに話す。外を知らないから怖いんだろう。
「解らない。でも俺は諦めない。」
ぼんやりと浮かぶ、俺達の帰る住処。雨風が凌げる、皆が寝る場所。皆で作ったもの。
蛍姉ちゃんは、何故言い出したんだろう?野宿をして辿り着いたのに。慣れているのに。
「…戦が無ければ、会わなかっただろう。」
悲しい時代、と蛍姉ちゃんは言う。よく解らない。
戦が無ければどうなるかなんて知らない。
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