ぶっ飛ばす | ナノ
負け惜しみ
心頭滅却すれば火もまた涼し、という言葉がある。しかし恋の火遊びとなると、全く関係ない話だ。
本人が燃えに燃えて周りが大変になるだけである。
「…サナゲン。構えがこないだと違う。俺に勝ちたいんだろ?」
剣道を真田の祖父から習っている遼は、真田と互角以上の腕を持つ。素養は充分あるのだが、極めようとしないだけだ。そのくせ、迷いを見抜くのだから惜しむ声も少なくはない。
「たわけ!」
勢い良く、真田は竹刀を振るったが軽くいなされる。互いに集中力が高まっているが、遼の気迫は喧嘩の時よりも荒々しさがない。
「なぁ、もう止めといた方がええんとちゃう?遼強いんは解っとるやん。」
「だよなー。サナゲン久しぶりにやってみたらてんでダメだしつまんねえ。」
軽口を叩きながら、遼は容赦なく打ち込んで真田は押されている。いつもなら、隙を見て反撃するのだがその気配も無い。
「佐々木とて集中しとらんではないか!」
「そりゃサナゲンの構えが変な時点でやる気も無くなるって。手加減してんのにこのざまだし。」
圧倒的な力で竹刀すら簡単にへし折る、関東最強とマトモにやりあってただで済むはずが無い。真田は軽く手を挙げ、終了を告げた。本当に集中力が散漫になっている。
「あっちー。毎回和服着てやってるけど慣れないってコレ。」
「遼、和服似合うやん。男物やけど。」
「色々大変だぞ?肩は緩いしウエストは絞らなきゃずり落ちるし、サナゲンのじゃ下の袴は短いし。」
女性にしてはゴツいが男性にしては華奢、と言うアンバランスな体格ならではの悩みだ。更に男らしい雰囲気で、なかなか性別は見抜かれない。
「遼ウエスト細いもんなぁ〜。羨ましいわ。」
「腹筋鍛えてこれだぞ?挫けたくなるって。」
「Aあるか無いか、ウエスト細くてスレンダーやしモデルも夢やないな。」
「…メンズなら散々勧誘された。雑誌見せたろ?投稿写真で強面系イケメン扱いされてた奴。」
哀愁を漂わせながら、襟元を寛げて胡座をかく姿さえ絵になる、悲しい女子中学生。
しかしバタバタと道場へ走る音と、叫び声が会話を中断させた。
「遼兄ちゃーん!おじちゃんに勝った!?」
「…おじちゃんっだはははははっ!!」
「戸籍上は確かに甥だが俺は中学生だ!」
泣くまで、遼と蓮は笑っていた。佐助も遼に構って構ってと、一気に騒がしくなった真田家。
結局、夕食まで遼達はご馳走になっていた。
「そーいや遼、何で真田んち?」
「サナゲンの爺ちゃんに古文習いに来た。ついでに欲しがってた古伊万里の皿やった。」
金の価値を知らない、お嬢様である。
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