文句あんのか | ナノ
まだ間に合う!


拳と背中で漢は語るべし。そんな本を読んだ遼だが、背中は判らないし拳で語るとは即ち、相手が間違い無く怪我をする。

「みっちゃん…拳で語るってどうやるんだ?」

「とりあえず佐々木には絶対適用されない。」

だからしないでくれ。ついでに出来れば拳ではなく口で語ってくれ、という多数の被害者達の切なる願いが込められた言葉だ。

「こないだ殴り合いがスキンシップって言ってたしオヤジに試すか…?」

「佐々木は殴り合いにならない。」

一撃で病院送りはいつもの事、手加減を覚えていてもそれはあくまで、遼基準の手加減なのだ。やられる方はたまったものではない。手塚も脳震盪で、救急車のお世話になっている。

「一回は殴られたり切られたり撃たれたりしてんだけどな。」

「その状況が解らない。」

頭突きすらダメージ絶大の遼だから、非日常的な日常を過ごす関東最強の超問題児。

「キレると投げちまうしなぁ…。漢ってよく分かんねえや。」

「そもそも、その本は何だ。」

漢の花道、と題されたいかにも自由業の方を題材にした本。

「貰った。俺の考え方は戦時中の読み書きそろばん出来ない兵士レベルだから読んでみろって。でも俺、そろばんは足し算と引き算しか出来ねえな。」

「…一体どういう基準でそんな本を。」

遼に読書を勧めるのは確かに悪い事ではないが、選ぶ本に問題がある気がしてならない。

「さぁ。あ、でも俺が女だって信じてねぇ。」

「下手な男より根性据わっているからな。」

遼が自宅に居る際の習慣、コーヒーを飲みながら食事をしているのだが、不似合いな話題だ。

「一方的にリンチする奴はやられた事がねぇから怖さが分かんねえって聞いたけどな。」

「…佐々木もされた事は無いだろう。」

そもそも、現在を考えると出来る人間がいたら返り討ちに遭うだろう。

「ねぇ。囲まれて殴られた事はあるけど、そこに廃看板があったからな。」

「…常識の範囲で説明してくれ。」

軽く100キロを越える物体を振り回す遼、体育の野球でも毎回ボールが行方不明になる。コンクリートも拳でヒビぐらい入れかねないのだ。

「俺は色々非常識だからなぁ。あ、こないだ荷物積んでなかったトラック投げられた。」

「…死人が出なかった事が奇跡だな。」

「持ち上げて投げるのはいいんだけど見事に飛びすぎてさ。」

「良くない。」

何故遼に惚れ込んでしまったのか、その夜真剣に考え込む手塚だった。

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