文句あんのか | ナノ
昨年の惨劇に学ぶ
試しに、と着せられたメイド服。…とりあえず見せるしかない、とカーテンを開けた遼を見てクラスメート(女子全員)は顔を背けた。男子は不在。
「…だからやめとけって言ったじゃねぇか…。」
目つきの悪い兄ちゃんがメイド服を着たところで、需要はおろか誰の得にもならない。実証してしまったのだ。
「メイドじゃないわ、これは視覚的なカタストロフよ…!」
「何をどう具体的に大破壊すんだよ。」
メイドさんへの夢や希望、ロマンをことごとく打ち砕く。凶悪な笑顔でお馴染みのセリフを言われたら、かなり怖い。他はロングスカートなのが遼だけ膝丈。身長の関係だ。
「佐々木さんにさせるなら戦うメイドさんより戦う執事の方が需要はあるけど…女子はメイド喫茶なのよね…。」
「どこのどいつだそんなマニアックな方向に文化祭盛り上げようとか言い出した奴は。安心しろ、殺しはしねぇが河原で遊ぶ時間はくれてやる。」
いや、ホントに言えません殺りそうなんで。と口をつぐむクラスメート。腕組みをして睥睨する遼がとても怖い。本当に同性ですか?と聞きたくなる程、女としてはゴツい。
「解ったろ。んじゃ脱ぐからな。」
早々にカーテンを閉めて、着替え出す。あれほどまでにインパクト絶大なメイドさん、マッチョではないが腕の筋肉は女性とは思えない。脂肪が少なすぎる。以来、遼に可愛らしい服を着せる事は厳禁となった。
「って話。普通に可愛い子に着せてキャーキャー笑ってりゃ良かったのにな。まぁ去年だけどな。」
「…確かに、ノーメイクなら破壊力絶大だ。被害も甚大だ。」
磨けば光ると考えている跡部に、現実はこんなモンだと説明していた遼。確かに自分より背の高い上に、目つきも悪いメイドは跡部にしても怖すぎる。昔から一緒にいたのなら、そういうものだと受け入れていただろう。
「化粧品ってくせぇからイヤ。俺はやる気ねぇ。」
やれば文字通り化けるだろうが、口調や仕草も全て変えなければ意味がない。
「俺の父親が遼の父親に打診しているらしいぞ。」
「あぁ、ヘッドハンティングな。仕事はそれなりらしいけどベタベタのジャパニーズイングリッシュだぞ?親父。」
判断力は優れものでも、意志疎通が大変なのだ。言語の壁は分厚い。
「国内なら全く問題は無いように思えるぞ?」
「仕事モードの親父見てねえからな、評判は悪くねえけど腹じゃどうだかな。」
観察眼の凄まじさは相変わらず。しかし、そこまで頭は良くない。
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