文句あんのか | ナノ
成績と賢さは違う


手塚は猛烈に悩んでいた。正月の事件(?)から遼の言葉が脳裏に過ぎる。

「みっちゃんの中じゃ俺ウエイト大きいみてえだけど逆は解ってんだろ?」

俺は、遼の特別ではないただの顔見知り。そう突き付けられたのだ。手塚の頭の中でぐるぐると巡る。バレンタインに友達、と忍足を呼んでいて利害関係で。男女の関係は全く無い。ちなみに遼は何も考えていなかったのだが。遼と手塚を繋ぐのは同じ学校、同じクラスを三年。接点は多くとも互いの祖父同士が知己だった。その遼の祖父も今は亡き人。気紛れに優しく、自由にあるがままに生きる遼を縛り付ける何かは無い。真夏の太陽のように印象深く、忘れるなど不可能なところまで手塚は遼を無意味に信じていた。

「遼にとっての俺…?」

遼が彩菜に鍵を渡し、そこから譲り受け定期的に様子を見ては掃除をする。遼が望んだ訳ではない。くたばってるかも、と可能性を示唆しただけで。返り血を浴びて凍るような目をする、トリックスターは風の吹くまま気の向くまま、嵐を起こしてはいつの間にか消えている。謎めいた人脈を個人で所有していて、どう動かせばいいのかある程度解っている。

「死ぬ気なら最初から死ねよ?」

遼なら言いかねないセリフだ。悪役の中の悪役、悪役を倒す悪役、手塚はそんな事を考えた。善人ではないと言い切るし、寧ろ悪党だと。だが目を離せない。魅入られたかのように、いつの間にか視線が向いてしまう。危険だと解っていても遼に惹かれ、欲する者は数多くいる。その未知数と言える力を求めて。恐ろしいからこそ押さえておきたい駒。だが遼を駒にするのは至難の業で…易々と籠に入れれば籠の中身は勿論籠も壊す。戦術、知識、力、まさに野生の猛獣だ。関東最強と謳われ、青学でも腫れ物を扱うように持て余される。

「…そう、か。」

手塚は答えを出した。遼は本心には本心で返す、誠実さを持っていて。作られたものには作られたもので返す。からかうのは本心を引き出す術を心得ているからだと。…正直に深読みしすぎだが。遼はそこまで頭の切れる人間ではない。傷の付け方は一級品でも。純粋な悪戯心でおちょくって遊んでいるだけ。知っているから、どう出るか予測している。とんでもないデータ量を持っているからはじめて出来る。紙一重で生き抜いたのもまた道理。学習していれば避けられる道を突き進んでいるのだ。

「必ず…。」

遼の頭の良さを買いかぶりきった手塚だった。

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