文句あんのか | ナノ
寒さで何かあった?
チラッと見ると青痣になっている遼の二の腕。そっと手塚は指先で触れた。
「痛まないのか?」
「押されたらちょっと痛いだろうな。この程度はいつもの事だ。」
きめ細かく、しっとりとした肌。喧嘩で少し汗でもかいたのだろう。
「本当に…放って置けないな、佐々木は。」
「みっちゃんに何か関係あったか…?」
「少しはある。気紛れに食事を作る事も泊まった事もあっただろう?クラスメートでもある。生傷が絶えないのは心配になる。」
そっと遼の右手を取り、ハンカチで拭く手塚。固まった血はなかなか落ちないのが少し有り難かった。
「あんま面殴らなかった筈なんだけどな。」
「これでいい。佐々木からは期待していないが…俺なりの感謝の礼だ。」
手渡されたのは小さな箱。お約束なら結婚指輪だが一応見えなくても中学生である。
「サンキュ。みっちゃん。その内何かやるよ。小金持ちだからさ。」
「佐々木から欲しいのは一つだけだな。」
遼は不思議そうに首を傾げた。
「何だ?絶版になった本とかか?」
手塚は遼の耳元で囁いた。
「…遼の心が欲しい。」
思わず手塚の額に手を当ててしまう遼。
「…熱は無いな。」
「俺を何だと思っているんだ。」
「言っちゃなんだけどな。みっちゃん冗談のセンス壊滅。」
手を離そうとした遼の手を握り、手塚は顔を近付け真剣に見つめる。
「冗談ではない。…好きなんだ。」
返事は要らない、とばかりに手塚から初めて唇を重ねた。遼は頬や額に口付ける事があった。からかう目的で。
「…好きなんだ。遼が。ずっとこの時間が続けばいいくらい。」
「みっちゃん、明るい真面目ちゃん好きじゃなかったか?」
超至近距離での会話。遼の声はいつになく掠れ気味で動揺している。
「遼は義理堅い。それも真面目の一つだ。」
もう一度、と唇を重ねる。二度と離れたくないと思いを込めて。長く。
「…俺だけは、死ぬまで離れない。離さない。絶対に1人にはしない…。」
「だから、付き合えって?」
「付き合って欲しくないと言えば嘘だ。だが…遼の事だ、直ぐに別れようとするだろう。」
うっわバレてーら、と目を逸らす遼。少し冷たい手塚の手は、遼とさほど変わらない大きさ。
「だから…五年後の遼を予約したい。俺が好きなままでいる自信はある。それまでに遼の心を貰う。」
「どうかな…。人生何が起きても不思議じゃねぇ。みっちゃんの頑張り加減は知ってっけど。」
遼は手塚の耳元で囁いた。
俺を捕まえるのは難しいからな?
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