文句あんのか | ナノ
祝う気ナッシング


12月、それはカップルの大量発生がお約束。遼も今年ばかりはうんざりしていた。中高生(女子)から告白の洗礼を受けているからだ。もっぺん千石殴り飛ばしてやるか今度は殺す気で。そんな危険思考を雑魚狩りで解消している。流石に返り血を浴びてギラギラした目の遼に、ときめくような猛者はいない。

「ゲームオーバーだ。レベル上げて出直せや。」

嘲笑いながら顔についた血を拭い、夜の街を歩き回る年末。はらりと白いものが遼の視界に入った。

「思ったより遅かったな。ホワイトクリスマス…俺はスカーレットか。」

10時24分、まだまだ遊ぶか帰るか…携帯を見て裏路地を抜ける。黒いジャケットについたベージュだったファーは赤黒く、乱れた髪の毛であるにも関わらず背も高く、整った顔立ちで目立つ。

「随分減ったな…。」

勢いしか無い後先を考えない兄ちゃん達、逆恨み、様々な人間を見てきたが…ありがちはありふれているからありがちなのだ、と知った。父親に色んな人間を見るのも勉強だと言われて、とりあえず手っ取り早く、情報収集を始めて四年。弱みは握れ、利用できるなら利用し、対価と言いながら自分にも利益のある事ばかりしてきた。

「やっと、みつ、けた…」

遼が知る限り、意外と人情が残っているのが関東。流石に死にかけてる人間は放って置けない。カップルだらけで雪に喜ぶ女を見て微笑む男。大気汚染って習いませんでしたか、なんて嫌みを言いたくなる遼は悠々と歩く。

「遼!」

この声は聞いたな、と足を止めて遼は振り返った。

「みっちゃん、何やってんだ?この道はロードワークにゃ向かねえぞ。」

いくら遼が避けられるとは言え、今日はクリスマスイブ。恋人達がいちゃこく日と言っても過言ではない。

「…佐々木に、話がある。時間はあるか。」

「あるけど…俺の馴染みでいいか?みっちゃん冷え症だからしんどいだろ。」

「構わない。」

んじゃこっち、と歩き出す遼の歩調は遅めだ。それについて行く手塚。五分程歩き、ドアを開けるとふわりと甘い香り。

「…何だこの店は。」

「俺の馴染みだって。アジアンティー専門店。12時までやってんだよ。」

今日はジャスミンが強いみたいだな、と遼は迷わず奥の扉を開けた。中は和室。

「あらあらまぁまぁ、遼さんったらそんな素敵な恋人連れて来ちゃって。クリスマスだものねぇ、お母さん嬉しいわ。」

「いや生物学的に無理だろ性転換オカマ。」

絢爛豪華な着物の艶やかな美女…もといオカマ。

「遼さんのいけずー。せめてニューハーフって言って欲しいわ。それに名前はシーナよ。」

やれやれ、と遼は靴を脱ぎシーナの前に座った。クリスマスの夜は長くなりそうである。

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