文句あんのか | ナノ
鋼色の目を持つ猫
「よぉアリス。ウサギは捕まったか?」
ひょいと顔を出した遼に幸村は思いっきり動揺した。
「何だよユキチャン。俺の面に絆創膏が意外か?」
「あ、ううん。ただ、久しぶりに話すから。ウサギは捕まったよ。」
幸村はバクバクと鳴る心臓を押さえるように手を強く握り締めた。
「退院してから会ってねぇもんな。ビビらなくても手ェ出さなきゃ殴らねえって何度言えばいいんだか。」
「多分、一生かかっても無理だね。遼は相変わらず綺麗だ。」
「ユキチャン、眼科か眼鏡屋行った方がいいんじゃね?」
「遼は綺麗だよ。」
やれやれ、と遼は首を竦めて鉢植えを差し出した。
「そのセリフはファンの可愛いお嬢さんに言ってやれよ。後この花とかな。」
「これは…ローズマリー?」
「おぅ。かなり前に花を見掛けてな。ユキチャン好みの花で料理にも使ってたのを分けた。こいつは丈夫と香りが取り柄だしな。」
クスリと笑って幸村は鉢植えを受け取った。
「遼は意外にロマンチストだね。花言葉、知ってるかな?」
「いや。料理目的だし。」
「再生、記憶、私を忘れないで。それが花言葉だよ?遼みたいな人、忘れようったって忘れられないのに。有難う。大事に育てる。」
「大事にって…かなり丈夫だぞ?」
首を傾げる遼は不思議でしょうがなかった。幸村は凄く嬉しい気持ちで一杯だ。大会以来、落ち込んでいたから。そこから再生しろと受け取ったのだ。遼が居ると、忘れないでいてくれるのだと。分けてくれた、それだけでも嬉しすぎた。繋がりがある。簡単には枯れないローズマリーが絆のように思えた。
「遼だけだよ、俺を無意識に励ましてくれるのは。」
「いや、ユキチャン…無意識に励ますとかどんな天然だよ。」
「遼だけだって。月並みな慰めなんて俺は要らない。俺はさ、遼がくれる言葉とか物で凄く嬉しい。」
「あのーユキチャンー?すげぇ口説かれてる気分なんだけど。」
「本心だよ?正直さ、落ち込んでたから。抱き付いていい?」
「まな板でいいならっと。ユキチャン痩せたな。」
掌に鉢を握って、幸村は遼に抱きついた。洗い晒しの衣服からは遼の匂い。…ただの洗剤だが。
「バレた?少し自主トレしてたら体重落ちた。」
「練習熱心なのはいいんだろうけどムチャすんなよ?周りが心配すんだろ。」
「ふふ、有難う。でも俺はもう部長じゃないからプロを目指すし。」
「だから自己管理が重要だろうが。プロを名乗るなら覚悟が要る。周りがどう言おうが、自分の道を歩かなきゃいけない。」
「だね。遼が俺より軽かったら攫ってたよ?」
「悪かったな70越えで。レンちゃんにでも聞いてみろよ、細かい事まで知ってる筈だぜ。」
「柳か。遼から教えてはくれないの?」
「…かなり不思議なんだけど何でどいつもこいつも知りたがるんだ?」
「それだけ遼が魅力的だって事。」
ポンポンと幸村の頭を叩く遼の手は大きい。幸村はそれだけでも嬉しかった。
アリスはね、見えないウサギじゃなくて綺麗なチェシャ猫が欲しくなったんだ。遼、俺がプロになったらずっと一緒に居て欲しい。消えないチェシャ猫でいて?俺のたった1人の騎士。王子様はピンチじゃなきゃ居てくれないから。
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