文句あんのか | ナノ
白昼堂々の寸劇


コツ、コツ、と珍しく革靴で歩く遼。理由は簡単、スニーカーがダメになったからだ。しかし服装もワイシャツにスラックスと似合っているのだが間違っている感は否めない。真っ昼間だからサングラスをしているが…目立ちまくる。

「ここ、まだあっかなー。俺サイズの靴。」

扉を開いて、靴を探す。デザインは全く考えない。サイズがある事自体奇跡的だから。意外といいデザインのものがある事もある。

「…佐々木遼クン…?」

「お、いつぞやのきてえー。今日帰るんだろ?」

軽く手を挙げて靴に目を向ける遼は、木手本人に興味は無い。

「えぇ…君は本当に謎が多い人ですね。」

「つーかさ、嗅ぎ回ってっけど俺女だからテニス無縁だぜ?」

「は、い?」

「耳の悪い連中が多いよなぁ…テニス部関係者。」

これも小さい、あれも小さいとサイズだけを見ては戻す遼。女らしさの欠片も見られない。

「女性…?」

「言っただろ。こんなナリでも女だ。性別偽って何が楽しいんだよ。」

お、あったあったと試しに履いて確認している遼を木手は呆然と見ていた。

「喧嘩は関東最強と聞きましたが…。」

「みっちゃんが言ってたな。でも男だとは言ってなかっただろ。みっちゃんもなかなかいい性格してきたじゃねぇか。」

楽しげに笑う遼は靴を箱に放り込んで、会計に向かった。思わず木手は追い掛けて、店を出た。

「では、自販機を投げる佐々木遼とは…」

「俺だ。ちょっとした有名人だぜ?夜にうろつくチーマー気取りに聞きゃ教えてくれんだろ。」

「お話を、聞かせて貰えますか?」

それに遼は首を傾げ

「誰に、だよ。日本語は正しく使おうぜ、コートの殺し屋さん。」

「この辺りには詳しくないので…佐々木遼に、聞きたい。」

「沖縄に興味はねぇな。関東把握するだけで二年かかってんだ。サダに結構情報流してテニス関係知ってるしな。」

「情報には、情報ですか?」

「いや?…そうだな、一発俺を殴れたら教えてやるよ。俺の知ってる事なら、何なりと。」

そう言われ、木手は瞬時に遼の腹に蹴りを入れようとしたが、ひらりとかわされて人混みに突っ込んだ。

「さぁさ皆様お立ち会い、佐々木遼と沖縄の中学生の喧嘩だぜー。見ても逃げてもいいぜ。命の保障はしねぇからなぁ。」

周囲がざわつき、人の垣根が出来上がる。木手は遼を睨みつけた。

「佐々木!わんを見世物にするだが!?」

「いやいや、善良な通行人を逃がしただけさ。どっからでもどんな手でもかかってこいよ。」

木手は持ち得る方法で遼に攻撃を仕掛けた。しかしそれはルールに縛られた戦い方でしかなく、ランダムに動く遼に掠りもしない。

「くっ…バケモノが…!」

「それは光栄の至り。さて、タイムオーバーだ。サツが来たぜ。」

じゃあな、と姿を消した遼を木手は呆然と見るしか無かった。

佐々木遼…一撃も入れられなかった…あの練習をしていたのに、縮地を使ったのに…なんてバケモノだ。どうすれば、聞き出せる?もどかしい。もう…会えないだろう。沖縄に興味は無いのだから。あれほど惹かれるのに、知りたいのに…。

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