文句あんのか | ナノ
野生の女獅子と豹
阿久津が河村に檄を飛ばしたと聞いて泣くまで笑い倒した遼。しかし会場には足を向けず、情報収集と交換を繰り返していた。
「ったくよぉ、夏休み満喫してる学生に喧嘩ふっかけんなよな。どーせ負けんだから。」
累々たる男達に吐き捨てて外された肩関節を壁で入れ直す。普通はとても痛い。
「うわ、兄ちゃんごっつ強いんやなぁ!」
「あ?」
目を輝かせた遠山が駆け寄った。
「ワイは遠山金太郎!兄ちゃんは?」
「佐々木遼。小学生が出歩く時間じゃねぇぞ?」
「ワイ中学生や。一年やけど。」
些か不満そうに呟く遠山に遼は口だけ笑い
「奇遇だな。俺も中学生だぜ。」
「兄ちゃん…ごっつ怖いな…。」
「よく言われるぜ。んで、何か用か?」
「ホテルがわからん…」
「迷子か。いいぜ、案内してやるよ。」
腕を回しながら遼は歩き出した。名前を聞いて即解ったのだ。忍足の従兄弟がいる学校だと。
「おおきに兄ちゃん!」
腕にしがみつかれても遼は不安定になる事無く、悠々と歩く。
「あ、金ちゃん!」
ホテル前に白石が立っていた。遼の腕から離れ、白石に駆け寄る遠山。
「兄ちゃんが連れて来てくれたんや!」
「へぇ、すまんなぁ、金太郎が迷惑かけてもうて。」
「いや?色々話が聞けたしな。楽しかったぜ、とぉくん。もう迷子になるなよ。俺は神出鬼没って言われてるぐらい、気紛れだからな。」
「おん!兄ちゃんまたな!」
ブンブンと手を振って遠山はホテルへ入った。
「えらい懐かれとんなぁ…あ、すまん。俺は白石蔵ノ介。四天宝寺三年や。」
「俺は佐々木遼、青学三年だ。」
「佐々木遼…?」
白石の表情が固まった。
「あぁ。自販機投げるバケモノだ。おっしーの従兄弟から聞いた事ねぇか?」
「あるで。関東最強の女やろ。馬鹿でかくて見た目は男にしか見えんて。」
「否定はしねぇ。でもちょいと勘違いしてんな。俺は誰彼構わず喧嘩売る趣味はねぇ。買ってるだけだ。」
「充分おっかないわ。関東じゃ知らん事は無いんやて?」
「まさか。全部は知らねえし知ろうとも思わねえ。」
ゆっくりと首を振る。
「よぉ言うわ…金ちゃん道案内下手くそなんやで?」
「現在の情報に関しちゃそこそこ知ってる自負はあるぜ。」
口だけで遼は笑った。
「ホンマおっかないわ…敵にしたが最後やな。」
「それは俺の気分次第だな。」
「余計に怖いっちゅーねん。」
「まあ二度と会う事もねぇだろうな。んじゃ、俺は帰るぜ。」
「切に願っとるわ。」
スッと白石の前を横切って家路につく遼。今日は打撲だから湿布で終わりだ。
百聞は一見に如かず…こないにおっかない奴初めて見たわ。金ちゃん怖いもん知らずやなぁ…。ホンマ男にしか見えん。包帯代えんといかんわ。冷や汗で湿ってもうた。神さん、頼んますから佐々木遼だけは敵に回しとうないです。
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