文句あんのか | ナノ
無意識に八つ当たり
遼の祖父が急逝した。だが肝心の父親は祖父を毛嫌いしていた事を、遼はその時まで全く知らなかった。…蒸発した母親を強く勧めたのが祖父なら仕方がない、とあっさり受け入れ、とりあえずやる事は遼の調べで大体やった。それ以来めっきり、手塚家に行かなくなった。用が無ければ行かないし、貸し借り無いだろ?と言わんばかりに。被害をモロに受けたのはテニス部の面々である。確かに手塚は厳しいが、磨きが掛かったのだ。八つ当たりもいいところで、遼は変わらず学校に来ない方が圧倒的。いっそ遼の家に行け!と誰もが考えていたが…自宅にいる確率が低すぎた。
「関東大会目前だからって…。」
「言うな英二。皆一緒だ。」
「いきなり毎日通いそうな人でもないしね…。」
はぁ、と溜め息の止まらないレギュラー。色んな意味でタイミングが悪すぎた。遼への淡い恋心を自覚させたのは三年になってすぐ。それからちっとも進展していない。遼が学校か手塚家へ行くか、手塚が遼の家に行き会わければ眉間の皺は深いまま。遼は至って変わらない自由人。会えないからと不機嫌になるのは…解らない事も無いが迷惑極まりない。
「佐々木先輩…噂にならなきゃ知らないッスよ。」
「そうだなマムシ…今ならお前と期間限定で分かり合えそうな気がする。」
遼は生身の色恋に疎い。お前誰それが好きだったよなー?とからかう事はあっても、自分は無縁だと確信しきっている節がある。あれだけ男前な見た目で、男扱いが当たり前の生活をしているのだから。
「今更噂にもならないだろうな…。手塚は分かり易すぎる。」
遼のストッパーは手塚で、手塚の安定剤は遼。どちらも周囲の認識で、遼を縛り付けるなど無茶な話。教えてもいい結果になる気がしない。
「乾先輩の情報とかどーッスか?」
「越前、残念だが佐々木が知っている確率は98%だ。」
重苦しい空気が部室内を漂う。手塚は生徒会の仕事で少し遅れるらしい。根本的な所に触れないのは大石の優しさだ。何故あんな核弾頭を好きになったのか。
「くっつけようとは思ってなかったんだけどな。」
自覚してもらって、引き止める努力をしてもらう筈が独占欲丸出しになるとは。
「部長もまだまだだね。」
「ちくっちゃお〜。」
菊丸の発言に騒ぎ出すレギュラー。…一時的にでも暗い話題から逃げられた。しかし4日後に遼が来て思わず涙ぐんでしまうのであった。
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