文句あんのか | ナノ
哄笑の中殴り飛ばす


カチカチと携帯を弄る遼を天変地異の前触れかとばかりに日吉は見ていた。休日に気晴らしを兼ねて、日吉は散策していたのだ。

「…へぇ。」

にやぁ、と口元に笑みを浮かべて遼はサングラス越しに日吉を見た。

「ひよ子は俺見て楽しいか?」

「いや、何か…意外で。」

「俺の活動時間すげぇ適当だぞ?」

日中の穏やかな公園で浮きまくる遼。最強の女であり日吉の下剋上相手。飛び蹴り一発で大の男を沈めるのだから。

「気紛れの代名詞だろ、アンタは。」

「だな。」

調子が狂う、と日吉は思うが強さは本物。

「性別間違って生まれたとしか思えないな。」

「同感。氷帝の連中は俺が見ただけでビビるからな。グラサン外せばお前もそうだろ?」

「…目つき悪すぎんだ。」

「ひよ子も俺の事言える程爽やかさんな目つきだったか?」

グッと言葉に詰まる日吉。良いとは言えない。だが、遼のように威圧感溢れる眼光ではない。いっそそうなりたいと思った事もある。ファンクラブが鬱陶しいからだ。

「佐々木は…」

「ん?」

「いや、いい。一回…アンタの戦い方を見たい。」

遼は頭を掻きながら

「規則正しく生きてるひよ子が見れる時間に喧嘩売られるか怪しいな。間違い無く巻き込まれんぞ?」

「自分の身ぐらい、守れるから言ってる。」

「骨折、流血当たり前で凶器何でもアリだぜ?キャーキャー言われてるキレイな顔に傷が付いても保障しねぇぞ。」

言外に守らないと言っているのだ。加えてテニスが出来なくなる可能性も示唆している。

「…それでも、見たい。」

最も恐れられる佐々木遼の戦いを。美しいだろうと日吉は勝手に思っている。

「大体9時過ぎから売られるけどな。毎日売られるワケじゃねぇし。俺もあっちこっち行くから運次第だぞ?」

「…解った。練習ある日は7時までやってる。」

「おぅ。知ってる。気が向いたら迎えに行ってやるよ。」

それで日吉は無理やり連れて行かれたと印象付けられるだろう。遼は何も考えていないが。

「佐々木は本当に…バカだな。」

「成績普通だけどなー。」

のんびり空を仰ぐ遼の首は白く細い。幾多の荒事を抜けてきたとは思えない。

「あれだけ氷帝に入り浸ってるのにか?」

「出席ギリギリだぜ。それで普通なんだぞ。」

「上位だったら殺意沸くな。」

「そりゃ世間様に言わせりゃ天才って呼ばれる。」

何気なく時計を見て、日吉は去った。残った遼はまた携帯を弄る。


俺はいつになく浮かれた。佐々木遼の戦いを間近で見られると。意外と早く見れたが…壮絶の一言だ。数えただけで13人の男を瀕死や気絶させた。ただ解った事は、笑いながら戦う佐々木は怖いが同時にもっと見たいと思う事。街灯に光る佐々木の目はナイフより鋭く、美しい。正直、勝てる気がしない。

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